トルコの通貨リラが、投資家たちの間で大きな波紋を広げています。2019年12月20日の外国為替市場では、対ドルで1ドル=5.93リラ前後まで売られ、前週末と比較して2%も値を下げる結果となりました。12月19日には一時、2019年5月以来となる約半年ぶりの安値を記録しており、市場には緊張感が漂っています。11月末までは5.7リラ台という比較的落ち着いた推移を見せていただけに、今回の急激な下落は驚きを持って受け止められているようです。
SNS上では「またトルコリラが暴落している」「スワップポイント狙いの投資家には厳しい展開だ」といった悲鳴に近い反応が相次いでいます。特に、トルコがシリア北部へ軍事侵攻を行った2019年10月中旬の安値を下回ったことで、さらなる下落を警戒する声が強まっているのです。長らく安定を保っていた通貨がなぜ今、再び崖っぷちに立たされているのか、その背景にはトルコが抱える複雑な国際情勢と国内の思惑が絡み合っています。
米国との火種再燃!エルドアン大統領の強気発言が引き金に
今回の急落を招いた直接的なきっかけは、2019年12月15日に行われたエルドアン大統領の発言でした。大統領は、トルコ南部にある「インジルリク米軍基地」について、状況次第では閉鎖も辞さないという極めて強い姿勢を示したのです。これは、アメリカの上院議会が、かつてのオスマン帝国時代に起きたアルメニア人に関する歴史的事件を「ジェノサイド(集団殺害)」と認定する決議案を採択したことに対する猛烈な反発といえるでしょう。
ここでいう「ジェノサイド」とは、特定の民族や人種などを計画的に抹殺しようとする行為を指す非常に重い言葉です。トルコ政府はこの認定を断固として拒否しており、国家のプライドをかけた外交問題へと発展しています。2018年にもアメリカとの関係悪化から「トルコショック」と呼ばれる深刻な通貨危機が発生した記憶が新しいため、投資家たちは再びの衝突を恐れてリラを手放す動きを加速させているのが現状なのです。
国営銀行による「買い支え」の沈黙と政府の思惑
これまでのトルコリラは、政治的なショックがあっても不思議と安定を保ってきました。その裏側では、トルコの3つの主要な国営銀行が「買い支え」を行っていたというのが市場の共通認識です。買い支えとは、自国の通貨が安くなりすぎるのを防ぐために、銀行が市場でリラを買い戻して価格を下支えする介入操作のことを指します。しかし、著名な専門家によれば、最近はこの国営銀行による大規模な介入の動きが見られないというのです。
なぜ、トルコ政府はリラの下落を放置しているのでしょうか。その背景には、輸出を伸ばしたいという経済戦略があるようです。トルコの貿易統計を見ると、好調だった輸出に陰りが見え始める一方で、輸入が急増している傾向にあります。通貨安は海外から見ればトルコ製品が安くなることを意味するため、輸出企業にとっては追い風となります。政府は景気刺激のために、あえて一定のリラ安を容認する「静観」の構えを見せているのかもしれません。
私個人の見解としては、外交カードとして米軍基地を持ち出すエルドアン大統領の手法は、あまりにもリスクが高いと感じます。通貨の安定は国民の生活に直結するものであり、一時的な輸出促進のためにリラ安を放置すれば、インフレ(物価上昇)を招き、結果としてトルコ経済全体の足腰を弱めかねません。政治と経済が危ういバランスで成り立つ現在のトルコ情勢からは、今後も一瞬たりとも目が離せない状況が続くでしょう。
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