「乳がんの手術を終えても、以前のように可愛らしく華やかな下着を身に纏いたい」という願いは、多くの女性にとって切実な希望です。岡山市を拠点に活動する「ブレストカウンセラー」の岡いずみさんは、そんな女性たちの心に寄り添い、確かな技術で支えています。
2019年9月24日、京都市の京都民医連中央病院の診察室には、色鮮やかなブラジャーが並んでいました。岡さんはここで、乳房再建後の痛みや体型の変化に悩む方々へ、最適な一枚を提案する相談会を行っています。その職人技とも言える丁寧なカウンセリングが、今大きな注目を集めているのです。
SNS上では「治療中の下着選びは本当に孤独だったので、専門家がいるのは心強い」「可愛い下着があるだけで、また明日から頑張ろうと思える」といった共感の声が溢れています。病気と闘う女性にとって、下着は単なる衣類ではなく、自分らしさを取り戻すための大切なツールであることが伺えます。
痛みを和らげる驚きの技術と寄り添う心
理容師として働く井上架予子さんは、2018年11月25日に左胸を全摘出し、2019年6月にはシリコーン製のインナープロテーゼ(人工乳房)による再建手術を受けました。しかし、仕事中に腕を動かすたびに、皮膚を拡張する器具の影響で強烈な痛みに襲われる日々が続いていたそうです。
そんな苦境を救ったのが、岡さんの適切なアドバイスでした。まずは無理をせずカップ付きインナーを着用することで、痛みが緩和され仕事への集中力を取り戻すことができたのです。井上さんは「次は胸元が綺麗に見える服を着たい」と、明るい笑顔で未来への希望を語ってくださいました。
「乳房再建」とは、がんの切除によって失われた胸の膨らみを、自身の組織や人工物を使って再び形成する手術を指します。外見を整えるだけでなく、心の回復にも寄与する重要な治療ですが、手術後の繊細な体調に合わせた下着選びには、医学的な視点と繊細な調整が欠かせません。
3000種類から選ぶ、あなただけの一枚
エステ業界で長年培った解剖学的な知識を持つ岡さんは、約3000種類にも及ぶバリエーションの中から、その人の骨格や脂肪の付き方に合わせた一着を選び抜きます。左右のバランスは特注のパッドで補正し、一人ひとりの身体の個性に完璧にフィットさせる技術は、まさに神業です。
岡さんが提供するのは、地味な医療用下着ではありません。一流メーカーが職人の手作業で仕上げるオーダーメイドのワイヤーブラジャーです。彼女自身も乳がんの経験者だからこそ、患者さんが抱える「医師や家族には言いにくい悩み」を、自分のことのように受け止めることができるのでしょう。
私自身の考えを申し上げれば、QOL(生活の質)の向上こそが、現代の医療における真のゴールではないでしょうか。病気を治すことと同じくらい、その後の生活を彩る「美しさ」や「喜び」を支える活動は、社会全体でもっと評価され、普及していくべき尊いものだと強く感じます。
医療現場からも寄せられる絶大な信頼
この取り組みのきっかけは、2010年に行われた岡山大学との共同研究でした。ブラジャーで胸を適切に固定することが痛みの軽減に繋がることが科学的に証明され、乳腺外科の専門医たちも、下着によるケアの重要性を高く評価しています。
2014年に独立して以来、岡さんのもとには全国の医療機関から依頼が舞い込んでいます。男性医師では気付きにくい細やかな感覚をすくい上げ、患者さんの表情を劇的に明るく変えていく姿は、医療チームにおける「下着のスペシャリスト」としての地位を確立しています。
「病を忘れさせてくれるような、華やかな一着を届けたい」。その一念でメジャーを手に全国を奔走する岡さんの挑戦は、これからも多くの女性たちに勇気を与え続けることでしょう。自分を愛するための下着選びが、新しい人生の一歩を力強く支えてくれるはずです。
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