土の香りに包まれ、植物の生命力を肌で感じる。そんな体験が、オフィスで働く社員の意識を劇的に変えようとしています。京都市を拠点に、有機野菜の定期宅配を展開する農業スタートアップ「坂ノ途中」が導入したユニークな制度が、今大きな注目を集めているのです。
その制度の名は「ゴーグリーン休暇」といいます。これは、社員が農作業や農産物の販売イベントをサポートする際に、通常の有給休暇とは別に年間で最大5日間、特別休暇を取得できる画期的な仕組みです。2018年の春から試験的にスタートし、2019年04月01日には本格的な導入が決定されました。
フルタイムで勤務する約40名の全社員が対象となっており、初めて参加するメンバーには、自社農場で「畝(うね)を踏まない」といった農業の基本作法からレクチャーが行われます。ちなみに「畝」とは、作物を植え付けるために土を盛り上げた筋のことで、ここを不用意に踏むと土が固まり、作物の成長を妨げてしまう大切な場所なのです。
なぜ「経理」や「IT担当」が畑へ向かうのか
農家と直接やり取りをする機会が少ない管理部門の社員であっても、この制度を利用すれば現場へ飛び込めます。「あったらおもろいんちゃう」という小野邦彦社長の直感から生まれたこの休暇には、全社員に「当事者意識」を持ってほしいという強い願いが込められているのです。
普段はデスクワークに勤しむ社員が、現場の苦労や喜びを分かち合う。これこそが、単なる「研修」ではなく、あえて「休暇」という形をとった坂ノ途中のこだわりでしょう。SNS上でも「仕事と学びの境界線が良い意味で曖昧で素敵」「会社全体で農家を支える姿勢が伝わる」といったポジティブな声が広がっています。
実際の利用者の一人である鈴木雅之さんは、すでに10回ほどこの制度を活用しており、2018年09月には通常の休みと組み合わせてベトナムの農場へも足を運びました。以前は休日にボランティアとして参加し、疲れから週明けに体調を崩すこともあったそうですが、制度化によって心置きなく現場に打ち込めるようになったと語ります。
農家の方々と共に汗を流すことで、心の距離は一気に縮まります。現場を知ることは、例えば顧客からのクレーム対応の際にも「なぜこの野菜がこの状態で届いたのか」を深く理解し、より誠実な説明を可能にする力となるのです。人事担当の松村佳江さんも、顔の見える関係性が「あの人のために」という働く意欲に繋がると期待を寄せています。
現在の利用者はまだ一部にとどまり、有休消化率の向上といった課題も残されていますが、私はこの取り組みに無限の可能性を感じます。効率化ばかりが叫ばれる現代において、あえて泥にまみれて「現場の論理」を学ぶ。こうした泥臭い経験こそが、スタートアップを支える最強の武器になるのではないでしょうか。
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