風船を膨らませるガスとしてお馴染みのヘリウムですが、実は今、世界規模で深刻な供給不足に陥っていることをご存じでしょうか。日本物理学会をはじめとする国内の47もの主要な研究機関や学会が、2020年01月06日に共同で危機を訴える緊急声明を発表しました。この事態に対してインターネット上でも、日本の科学研究の未来を不安視する声が数多く上がっており、SNSでは「実験がストップしてしまうのではないか」といった悲痛なつぶやきが拡散されています。
私たちが日常で目にするヘリウムは、実は科学や医療の発展に絶対欠かせない極めて貴重な資源なのです。特に、電気抵抗がゼロになる「超電導」という現象の研究や、スマートフォンなどに使われる半導体の製造現場では必須の物質となっています。ヘリウムには「極低温」、つまり物質がこれ以上冷えないマイナス269度という驚異的な冷たさを実現できる、地球上で唯一の冷却剤という唯一無二の特性があるため、他の物質では絶対に代わりが務まりません。
これまでの供給不足は一時的な流通のトラブルが原因でしたが、今回の危機は世界の構造変化が背景にあります。中国を中心としたアジア圏でハイテク産業が急成長し、需要が爆発的に増えている一方で、世界最大の生産国であるアメリカが供給を制限していることが主な要因です。日本はヘリウムを100%輸入に頼っているため、世界的な争奪戦の煽りをダイレクトに受けており、私たちは資源を他国に依存するリスクを改めて突きつけられていると言えるでしょう。
実際に現場が受けているダメージは想像以上に深刻です。東京大学物性研究所が2019年07月に実施した調査によると、ヘリウムの価格が前年度の2倍にまで跳ね上がったという悲鳴や、お金を出してもそもそも手に入らないという最悪のケースが報告されました。研究費が圧迫されるだけでなく、貴重な実験自体が中止に追い込まれる可能性すら出てきており、このままでは日本のハイテク産業や先端科学の競争力が世界から遅れを取ってしまうのではないかと私は強く危惧しています。
この難局を乗り切るため、学会側は使用したヘリウムガスを回収して再び液体に戻す「再利用」の徹底を研究者たちへ呼びかけています。しかし、ガスを液体にするためには大がかりな施設が必要となるため、保有できている機関はまだごく一部にとどまるのが現状です。国を挙げたリサイクル体制の構築はもちろんですが、限られた資源を無駄にしないために、民間企業も含めたサプライチェーン全体で回収効率を高めるイノベーションが今こそ求められているのではないでしょうか。
事態を重く見た共同グループは、民間任せにせず政府が主導して国内にヘリウムを備蓄する拠点を新設することを提案しました。さらに、高圧ガスを安全に管理するための厳しい法律や規制を緩和し、現場がより柔軟にヘリウムを再利用しやすくなるような環境整備も求めています。最先端の科学技術を守ることは、巡り巡って私たちの未来の暮らしを守ることに直結するため、国には迅速で柔軟な制度設計を進めてほしいと切に願います。
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