いつ発生するか予測がつかない巨大地震に対して、日頃からオフィスでの備えを進めることは非常に重要です。しかし、「何から準備すればいいのか分からない」と悩む方も少なくありません。そこで今回は、文具やオフィス家具の大手企業で防災ソリューションを担当する専門家に、今すぐ実践できる職場での備えのポイントを取材しました。
従来の「災害のためだけに特別なものを準備する」という意識を変えることが、実は防災へのハードルを下げる最も有効な近道となります。普段から愛用しているアイテムを、もしもの時にも役立てるという柔軟な視点への転換が、これからのオフィスライフには求められているのです。
SNS上でもこの考え方には多くの共感が集まっており、「大がかりな準備は身構えてしまうけれど、これなら今すぐ始められる」といった前向きな声が目立ちます。肩の力を抜きつつ、実用的な備えを日常に溶け込ませていくスタイルが、現代のビジネスパーソンにとって最適な選択肢と言えるでしょう。
コクヨの専門家である酒井希望さんは、2011年03月11日の東日本大震災が発生した際、東京都内のコンビニエンスストアで商品の売れ行きを独自の視点で定点観測しました。その結果、震災直後に食品類が消えた後、夜になるにつれて歯ブラシやマウスウォッシュが品切れになったことに着目したのです。
これは、避難生活のストレスや不安から、口内の不快感や口臭を気にする人が急増したためだと分析されています。災害時は食料の確保に目が向きがちですが、実際には衛生環境を保つアイテムがメンタル面のケアに直結するため、非常に高い実用性を持っています。
そこでおすすめなのが、ウェットティッシュや携帯用充電器といったビジネスの必須ツールを、普段からポーチにまとめて持ち歩く方法です。災害専用としてしまい込むのではなく、日常的に使いながら備えることで、いざという時にも迷わず使いこなせるという大きなメリットが生まれます。
また、内田洋行の大島利佳さんは、個人単位でオフィスに備蓄を行うことの重要性を強く提唱しています。これには「ローリングストック」という、日常生活で消費しながら備蓄を維持する優れた手法を取り入れることが非常に有効です。
ローリングストックとは、定期的に備蓄品を消費し、食べた分だけ新しく買い足していくことで、常に一定量の新鮮な食料を保管する仕組みを指します。これにより、従来の備蓄にありがちだった「気づいた時には賞味期限が切れていた」という手痛い失敗を防ぐことが可能になります。
社内の特定の位置に物資を集中保管していると、エレベーターが停止した際に上の階まで運べなくなるリスクが発生します。そのため、個人のデスクの下に収納できるコンパクトな備蓄ボックスを配置し、水やアルファ米、クッキーなどを各自で管理するアプローチが極めて合理的です。
さらに、フリーアドレス制を導入している職場であれば、個人ロッカーを有効に活用したり、通勤カバンに最低限のアイテムを常備したり工夫を凝らしたいところです。自分が食べ慣れているお気に入りのお菓子や、女性であれば生理用品など、個人のニーズに合わせたカスタマイズも欠かせません。
防災力を高めるためには、オフィス内の整理整頓を徹底することも基本でありながら非常に高い効果を発揮します。大きな揺れに襲われた際、足元に余計な書類や荷物が置かれていなければ、即座にデスクの下へと潜り込んで大切な頭部を保護することができるからです。
加えて、あえてカーテンを閉め切って照明を消した会議室などを使い、同僚と一緒に疑似的な停電状態を体験してみる実験も推奨されています。実際に暗闇の中でアルファ米にお湯や水を注ごうとすると、規定の線が全く見えず、想像以上に調理が困難であることを痛感させられます。
このように、暗闇の中で自分自身が何に困り、どんな道具を欲するのかを事前に体感しておくことで、より精度の高い備えへと繋がります。机上の空論で終わらせず、五感を使って課題を発見するワークショップのような試みは、企業全体の防災意識を底上げするために素晴らしい取り組みです。
万が一オフィスで被災した場合は、交通機関の混乱による二次被害を防ぐため、むやみに帰宅せず社内にとどまることが基本原則とされています。そして、安全が確認されて実際に帰路につく段階を想定し、事前に同僚と話し合いを進めておくことも重要なポイントです。
具体的には、自宅の方向が同じメンバーの中から、年齢や家族構成、体力が似通っているビジネスパーソンを見つけておくことが推奨されます。小さな子どもや高齢者の家族が家で待っているなど、家庭の事情が近い者同士であれば、歩行ペースを合わせやすく、互いの状況を理解し合えます。
また、道中で支援物資を受け取るための行列に並ぶ際にも、複数人のチームであれば手分けして効率的に動くことができるでしょう。実験データによると、最も機敏かつ柔軟に行動できる人数は3人程度とされており、多すぎるとかえって集団の移動スピードが落ちる傾向にあります。
こうした災害時の具体的な行動シミュレーションや役割分担を、平時の段階から社内のチーム内でカジュアルに共有しておくことが大切です。特別な訓練と身構えずに、日頃のコミュニケーションの延長線上で防災を語り合う文化こそが、これからのオフィスに求められる最大の防御策となるでしょう。
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