共働き世帯が当たり前となった現代、男性の育児参加への関心はかつてないほど高まっています。日本政府は2020年までに男性の育児休業取得率を13%に引き上げるという目標を掲げていますが、その道のりは決して平坦ではありません。そこで今回は、人事労務のスペシャリストであるグレース・パートナーズ社会保険労務士事務所の佐佐木由美子代表に、企業が直面している課題と、これから目指すべき姿についてお話を伺いました。
驚くべきことに、日本の男性育休制度は世界的に見て極めて高い水準にあります。2019年6月に国連児童基金(ユニセフ)が発表した報告書では、給付金などが充実している男性の育休期間の長さにおいて、日本は調査対象41カ国中で第1位に輝きました。しかし、2019年6月の厚生労働省の調査によれば、2018年度の男性の育休取得率はわずか6.16%に留まっており、制度の充実度と利用実態の間には大きな乖離があるのが現状です。
知っておきたい育休制度の仕組みと「パパ」のための特例
そもそも育児休業制度とは、原則として1歳に満たない子どもを育てる労働者が、育児のために仕事を休める仕組みです。もし保育園が見つからないといった事情があれば、最長で子どもが2歳になるまで延長も認められています。さらに「パパ・ママ育休プラス」という制度を利用すれば、父母が共に取得することで、子どもが1歳2カ月になるまで育休期間を延ばすことが可能です。これは夫婦で協力して育児をスタートさせるための強力な後押しとなるでしょう。
また、男性特有の柔軟な仕組みとして「パパ休暇」も存在します。これは妻の出産後8週間以内に夫が育休を取得した場合、特別な事情がなくても2回目の育休を取れるというものです。例えば、妻の退院直後に一度休み、数ヶ月後に妻が職場復帰するタイミングで再度休むといった、戦略的な育児参加が可能になります。SNS上でも「この制度を知っていればもっと柔軟に動けたのに」といった、周知不足を嘆く声が散見されるほど、実は便利な制度なのです。
経済的な不安を感じる方も多いかもしれませんが、休業中は「育児休業給付金」が支給されるため、一定の収入が確保されます。具体的には、育休開始から最初の6カ月間は、休業前の賃金の約67%が支払われ、その後は50%に変わります。さらに特筆すべきは、育休中の社会保険料(健康保険や厚生年金など)が本人・会社負担ともに免除される点です。これにより、実質的な手取り額は休業前の8割程度にまで維持されるケースも少なくありません。
形式的な「1週間育休」を超えて。企業が男性育休を推進するメリット
大手企業を中心に取得者は増えつつありますが、佐佐木氏は「実際には1週間程度の短期間で復帰するケースが多く、これが実情だ」と指摘します。企業側がイメージ向上のために有給休暇を育休名目で消化させる例もありますが、これでは「男女が共に育児を担う」という本来の目的は達成できません。中小企業では「人手不足で休まれては困る」という意識が根強く、男性社員が最初から取得を諦めてしまい、申し出さえ行われないという悪循環に陥っています。
しかし、現在は深刻な「売り手市場」であり、新卒採用や中途採用において優秀な人材を確保するためには、「男性も育児ができる環境」をアピールすることが不可欠です。また、育休を通じて業務の効率化やワークライフバランス(仕事と私生活の調和)が向上すれば、長期的に見て社員のパフォーマンスは高まるでしょう。さらに、条件を満たせば中小企業で57万円といった助成金も国から支給されるため、コスト面でのメリットも無視できません。
「パタハラ」を根絶し、多様な家族の形を尊重する職場へ
職場での大きな壁となっているのが、上司や同僚からの嫌がらせ、いわゆる「パタハラ(パタニティ・ハラスメント)」です。2017年01月01日からは改正法により、会社側に防止措置を講じることが義務付けられています。「男のくせに休むのか」といった心ない言葉や、昇進をちらつかせた脅しは、明らかな法律違反です。管理職には、旧来の「男は外、女は家庭」という価値観をアップデートし、育休の社会的意義を正しく理解することが求められています。
また、これからの時代は性的少数者(LGBT)への配慮も欠かせません。育休は法律上の親子関係があれば、実子か養子かを問わず取得が可能です。多様なカップルが安心して育児に励めるよう、人権を尊重する姿勢を社内で共有することが、企業の品格を問う試金石となるでしょう。管理職は部下の家庭環境を適切に把握し、個別に制度を知らせる努力が求められます。特に転勤を伴う異動などでは、育児の状況に配慮することが法律上も必要となっています。
育休を取得したい男性社員にとっても、周囲への配慮は重要です。突然「明日から休みます」と宣言するのではなく、事前に業務のマニュアルを作成し、チーム内で情報を共有しておくことで、同僚の負担を最小限に抑える工夫をしましょう。私自身の意見としては、男性育休は単なる「育児の手伝い」ではなく、一人の人間として、また組織のリーダー候補としての視野を広げる貴重な修行の場であると確信しています。この2019年を、本当の意味での「育休元年」にしたいものです。
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