がん治療の選択肢として大きな注目を集める「粒子線治療」の世界において、今、画期的な医療機器が大きな話題を呼んでいます。アルフレッサファーマ株式会社が開発した粒子線治療用吸収性組織スペーサー「ネスキープ」は、2019年6月の発売以来、多くの医療従事者や患者から期待の眼差しを浴びているのです。SNS上でも「これまで治療を諦めていた人にとっての希望の光になる」「日本のものづくり技術が医療現場を救う素晴らしい事例だ」といった感動の声が数多く寄せられています。
そもそも粒子線治療とは、陽子や炭素の原子核を高速に加速させた「陽子線」や「重粒子線」という放射線をがんに照射する、身体への負担が少ない最先端の治療法を指します。ピンポイントで病巣を狙い撃ちできる点が大きなメリットですが、これまではがんの腫瘍が胃や腸などのデリケートな消化管、あるいは生殖器といった「放射線に弱い臓器」に隣接している場合、周囲への影響を考慮して治療を断念せざるを得ないという厳しい現実が存在していました。
従来の医療現場では、腫瘍と保護したい臓器との間にプラスチック製のスペーサーを挟み込んで距離を保つ手法が試みられてきました。しかし、プラスチックは体内に残るため、放射線治療が終わった後に再び取り出す手術を行わなければなりません。治療のために合計2回も手術を受ける必要があり、患者の身体的な負担は非常に重いものでした。こうした医療現場の課題を解決すべく、「体内で自然に溶けてなくなるスペーサーが欲しい」という神戸大学からの切実な要望が上がったのです。
不織布技術と試行錯誤が生んだ「体内で溶ける」魔法のクッション
この難題に立ち上がったのが、手術用縫合糸の分野で国内トップシェアを誇るアルフレッサファーマ株式会社でした。同社の島田浩一社長をはじめとする開発チームは、水分によって分解される「ポリグリコール酸」という縫合糸の素材に着目します。水分を吸収することで粒子線を遮る効果が高まるという特性を活かし、協力会社とともに試行錯誤を重ねた結果、太さ数十マイクロメートルの原糸を数万メートルも編み込んだ「不織布」のスポンジ状スペーサーが誕生しました。
開発において最も苦労したのは、体内の臓器に押されても潰れない強さと、周囲の組織を傷つけない柔らかさを両立させる「絶妙な硬さ」の調整です。動物実験を何度も繰り返した結果、5ミリメートル、10ミリメートル、15ミリメートルという3種類の厚みが導き出されました。こうして10年もの歳月と莫大な開発費を投じ、2018年12月に厚生労働省からの製造販売承認を勝ち取ったのです。1人でも多くの命を救いたいという執念が実を結んだ瞬間でした。
現在、日本全国で20を超える粒子線治療施設の医師たちが協力体制を敷いており、早くも現場からはさらなる改良への期待や要望が寄せられています。私は、この「ネスキープ」が日本の最先端医療を世界へ発信する起爆剤になると確信しています。患者の痛みに寄り添い、2回目の方策を不要にしたこの技術は、今後アメリカやヨーロッパなどの海外市場でも同様の悩みを抱える人々を救うでしょう。同社が目指す地道な改良の歩みと、これからの世界展開に強くエールを送りたいと思います。
コメント