デジタル化の波が押し寄せ、ペーパーレス化が急速に進む現代社会において、印刷業界にも大きな変化が訪れています。驚くべきことに、紙の需要が落ち込んでいるにもかかわらず、チラシなどに使われる印刷用紙の市場価格が、2019年2月以降から長期にわたって高止まりを続けているのです。大手紙商社の幹部も、これほど長期間にわたり市況が崩れない現象は、過去30年のキャリアで初めての経験だと驚きを隠せません。ネット上でも「最近チラシが減ったと感じていたけれど、紙の価格が関係していたのか」と、合点がいったような声が多数寄せられています。
一般的に、需要が減れば価格は下落するものですが、なぜ今回はこのような異例の事態が起きているのでしょうか。その最大の理由は、製紙各社がこれまでの戦略を大きく転換し、生産能力の削減や減産に本腰を入れているからです。かつての業界では、他社より多くのシェアを奪うために、無理な増産を繰り返して自ら市場を荒らす傾向が見られました。しかし今回は、パイが縮小する中で不毛な価格競争を仕掛けても共倒れになるだけだと各社が深く学習し、市場の需給バランスをコントロールする賢明な選択を下したと言えます。
実際に、主要な製紙大手5社は足並みを揃えて生産設備の縮小に動いています。2018年から2020年までの3年間で、削減される生産能力は合計で150万トン近くに達する見込みです。市場の出荷量も目に見えて減少しており、業界の危機感が本物であることを物語っています。さらに追い打ちをかけるように、2020年からは船舶燃料への環境規制が強化されるため、主原料である木材チップの輸入コストや船賃が上昇する予測が出ているのです。製紙側としては、生き残りをかけて価格を意地でもキープせざるを得ないのが本音でしょう。
しかし、この「供給を絞って価格を守る」という防衛策は、諸刃の剣でもあると私は考えます。なぜなら、用紙を大量に消費するスーパーなどの現場からは、現在の価格がかなり割高に映っているからです。実際に、コスト削減のためにチラシの配布回数を減らしたり、サイズを小さくしたりする企業が増加しています。価格を維持しようとする必死の試みが、結果として最終需要家の「紙離れ」をさらに加速させ、市場そのものを縮小させてしまう皮肉な未来を招きかねません。業界全体の寿命を伸ばすための、より柔軟な次の一手が求められています。
コメント