日本銀行による長期国債の買い入れ額が、かつてない勢いで減少しています。2019年12月31日時点における年間の保有残高増加額は、公に掲げられている目標値である「年間約80兆円」のわずか2割程度にまで落ち込みました。この水準は、物価目標を導入する前の2013年1月当時に逆戻りしたかのような規模です。異次元緩和の象徴だった巨額の資金供給という枠組みが、今まさに大きな曲がり角を迎えている様子が浮き彫りになっています。
SNS上でもこの動きは敏感に捉えられており、「事実上のテーパリング(量的緩和の段階的縮小)が進んでいるのではないか」という指摘や、「物価が上がらない中での方針転換に不安を覚える」といった声が相次いでいます。そもそもテーパリングとは、中央銀行が景気刺激のために続けてきた資産買い入れの規模を徐々に減らしていく政策を指します。公式なアナウンスがないまま、実態として国債購入が減っている現状に対して、ネット上では日銀の次の一手を注視する書き込みが急増しています。
金利誘導への転換がもたらした購入抑制の舞台裏
日銀は2016年9月21日に、政策の軸足を「資金の供給量」から「金利のコントロール」へと大きくシフトさせました。国債を大量に買い続ける政策に限界が見え始めたため、10年物国債の利回りをゼロ%程度に誘導する方針を選んだのです。現在では日銀が市場の国債の約5割を占有する事態となっており、かつてほど必死に買い集めなくても金利を低く抑え込める環境が整いました。そのため、買い入れのペースが自然と落ちていくのは当然の帰結と言えます。
それにもかかわらず、日銀が「年間約80兆円」という看板を下ろさない背景には、複雑な内部事情が存在します。組織内には資金供給の規模を最優先すべきだと主張するリフレ派の存在があり、この目標を撤回することへの抵抗が根強いのです。リフレ派とは、通貨の流通量を増やして緩やかなインフレを起こし、デフレ脱却を目指す経済学の立場を意味します。さらに、目標を削除すれば「金融引き締め」と誤解され、為替市場で円高が急進するリスクも警戒されています。
形骸化する目標の行方と今後の市場インパクト
しかし、実態を伴わない数字を掲げ続ける姿勢には、国際通貨基金(IMF)からも情報発信の透明性を欠くとして苦言を呈されています。また、2020年3月には緩和重視派の審議委員が任期満了を迎えるため、後任の人事次第では方針が見直される可能性も否定できません。形骸化した目標の修正は本来なら歓迎されるべきですが、市場を刺激したくない日銀の内部には、現状維持を望む「触らぬ神に祟りなし」といった空気が色濃く漂っているのが現状です。
筆者の視点としては、実態とかけ離れた目標を放置し続けることは、中央銀行に対する市場の信頼を長期的に損なうリスクがあると考えます。幸いにも米国側の利下げが一服したことで、現在の為替相場は円高の圧力が和らいでいる状態です。市場関係者からも、形ばかりの目標を撤廃したところで実利的な影響は限定的だという冷静な見方が出ています。世界経済の動向を見極めつつ、この「有名無実化した80兆円」という看板をいかに美しく降ろせるかが、今後の大きな焦点となるでしょう。
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