ページをめくるたびに、おいしそうな香りが漂ってきそうだったあの頃。幼い頃に夢中になった絵本の世界の料理、いわゆる「絵本メシ」が、今大きな注目を集めています。焼きたてのふんわりとしたカステラや、香ばしく揚がった山盛りのドーナツなど、どこか心温まるメニューが現実の世界に飛び出してきました。大好きなキャラクターと同じ気分を味わえるこのトレンドは、子どもだけでなく大人の心も掴んで離しません。2次元の思い出と3次元の美味しさを同時に体験できる、幸せな時間が広がっています。
東京の自由が丘にあるパンケーキ専門店「ルサルカ東京自由が丘店」は、平日から多くの女性やカップルで賑わいを見せています。みなさんのお目当ては、不朽の名作『ぐりとぐら』に登場するあの黄色いカステラをイメージした「厚焼きフライパンケーキ」です。約5センチメートルもの見事な厚みがあり、表面はきれいな小麦色に焼き上げられています。SNSでも「絵本のままで感動した」「可愛すぎて食べるのがもったいない」といった声があふれており、写真映えの良さも人気の秘密と言えるでしょう。
おうちで絵本メシを再現し、親子の絆を深めているご家庭もあります。仙台市で2人の子どもを育てる母親は、2020年1月17日の時点で、長女が大好きな絵本『バムとケロのにちようび』を参考にドーナツを作りました。絵本のレシピに忠実に、通常のドーナツよりもカリカリに揚げるのがポイントです。山盛りに積まれたドーナツを見た子どもたちは大興奮。かつて離乳食を食べずに悩んでいた時期があったものの、この絵本メシをきっかけに、食べる楽しさに目覚める素敵な変化が生まれています。
こうした手作り絵本メシのアイデアは、インスタグラムなどのSNSでも「いいね」が続出するほどの反響を呼んでいます。単に食事を作るだけでなく、物語の背景を共有することで、子どもの食育や知育にも繋がっていくのが素晴らしい点ですね。食育とは、様々な経験を通じて食に関する知識を深め、健全な食生活を実践できる人間を育てることです。大好きな絵本を入り口にすれば、子どもたちも自然と食べ物への興味や感謝の気持ちを持つことができるため、非常に理にかなったアプローチだと実感します。
大人も童心に帰る!癒しの絵本専門カフェの魅力
さらに、大人を対象にした本格的な絵本カフェも登場し、静かなブームとなっています。東京の高円寺にある「ムッチーズカフェ」では、絵本専門士の資格を持つスタッフが厳選した、600点以上の作品が常時用意されています。絵本専門士とは、絵本に関する高度な知識や感性を備え、その魅力や可能性を伝える専門家のことです。このカフェは大人たちが静かに絵本の世界に浸れるよう、あえて入店ルールを設けることで、落ち着いた上質な空間を守り抜いています。
こちらのメニューは非常に個性的で、来客を飽きさせません。落語絵本『じごくのそうべえ』をモチーフにした「地獄の黒カレー」は、じっくり煮込んだルーに足に見立てた手羽先が大胆に突き刺さるインパクト抜群の一品。訪れる客の多くは女性ですが、40代から60代の熱心なファンも多く、丸一日をここで過ごす人もいるそうです。まるで薬の処方箋を出すように、その日の気分に合わせてスタッフが絵本を選んでくれるサービスもあり、忙しい現代人の心を優しく解きほぐしています。
出版業界全体が不況と言われる現代において、児童書や絵本の市場は年約870億円前後を維持しており、現在は「第3次絵本ブーム」が到来しているとされています。かつて1970年代のブーム時に子どもだった世代が親になり、自らの子どもへ読み聞かせていることや、現代の実力派作家たちの活躍が背景にあります。デジタルデバイスに囲まれる日々だからこそ、スマホを少し置いて、優しい絵本のページをめくる時間が、今の私たちには必要なのかもしれません。
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