1300年以上の歴史を誇る日本の伝統的な宮廷装束「有職装束(ゆうそくしょうぞく)」。その源流を探る上で、絶対に外せない国宝が存在します。それが中宮寺に伝わる最古の刺繍遺品「天寿国曼荼羅繍帳(てんじゅこくまんだらしゅうちょう)」です。この至高の名宝に描かれた古代の衣服から、当時の人々が込めた切なる願いと、私たちが知る歴史の意外な裏側を解きほぐしていきましょう。
この壮大な美術品が誕生した背景には、深い愛の物語がありました。偉大な先駆者である聖徳太子(厩戸皇子)が亡くなった後、妃である橘大郎女(たちばなのおおいらつめ)は深い悲しみに暮れます。彼女は「太子が旅立たれた国を見たい」と強く願いました。その想いを受け止めた推古天皇の命により、2020年01月20日現在も語り継がれる奇跡の世界が、色鮮やかな刺繍によって描き出されたのです。
ネット上でも「推しを想うあまり異世界を具現化させる究極の愛」「古代の刺繍技術の高さに圧倒される」といった熱い反響が寄せられています。特に注目を集めているのが、画面の中央右側に佇む気品あふれる男子像です。一見すると、この人物こそが聖徳太子ご本人ではないかと想像が膨らみますよね。しかし、その姿は私たちが教科書などで見慣れているお札の肖像画とは、驚くほどかけ離れた衣装をまとっているのです。
中国の流行を取り入れた古代日本の最先端モード
実はこの時代の日本は、中国や朝鮮半島の文化をどん欲に吸収し、独自の形へと変化させていく過渡期にありました。中国の歴史書『隋書(ずいしょ)』には、日本が隋の影響を受けるようになってから初めて、身分を表す帽子のルールである「冠位(かんい)の制度」ができ、カラフルな生地に金銀をあしらうようになったと記録されています。まさに当時の最先端ファッションを取り入れた、華麗な国際化の象徴と言えるでしょう。
ここで、誰もが学校で習う「冠位十二階(かんいじゅうにかい)」の有名な謎に迫ります。一般的に、冠の色は上位から紫、青、赤、黄、白、黒の順番だったと説明されることが多いですよね。しかし驚くべきことに、正史である『日本書紀(にほんしょき)』には、具体的な色彩の指定は一言も明記されていません。現代に伝わる色分けは、後世の学者が中国の自然哲学「五行説(ごぎょうせつ)」に当てはめて想像したものに過ぎないのです。
それでは、刺繍の中の男性が着ている鮮やかなオレンジ色の装束は何を意味するのでしょうか。この色は、現代でも皇太子だけが着用を許される特別な色「黄丹(おうに)」に酷似しています。昇る朝日の輝きを象徴するこの色が、当時から高貴な身分の証として存在していた可能性は極めて高いと考えられます。歴史の常識を覆すような発見が、この小さな布の中に今も息づいているのです。
歴史とは、記された文字だけでなく、残された衣服の色彩からも雄弁に語られるものだと実感させられます。2020年01月20日の今、奈良国立博物館に寄託されているこの繍帳の輝きは、1300年前の職人たちの息遣いをそのまま伝えているかのようです。私たちは教科書の記述を鵜呑みにせず、目の前にある遺物が発するリアルなメッセージに、もっと耳を傾けるべきではないでしょうか。
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