マイナス金利政策の長期化によって地方銀行を取り巻く環境が厳しさを増すなか、山形銀行が新たな一手を投じました。同行は2019年12月に、銀行が全額出資する子会社としては国内初となる「地域商社」を設立したのです。これまでの地銀の常識を覆すこの大胆な挑戦は、SNS上でも「これぞ地銀が生き残るための本質的な攻めの姿勢だ」「他の地銀のロールモデルになるのではないか」と、大きな期待を伴うポジティブな反響を呼んでいます。
山形銀行を率いる長谷川吉茂頭取は、地銀の現状に対して強い危機感を抱いていました。そこで同行は、2012年から行員を通常業務からシフトさせて新産業の育成に挑む「山形成長戦略プロジェクト」を始動させています。この長年の取り組みが実を結び、山形大学との連携によるリチウムイオン電池関連事業や、慶應義塾大学先端生命科学研究所が輩出した高度な研究成果が、ついにビジネスの表舞台へと姿を現し始めたのです。
一般的な地域商社といえば、地元の農産物や食品を一般消費者向けに販売するケースが大半を占めています。しかし、山形銀行が目指すのは、それらとは一線を画す「BtoB」、つまり企業間取引を主軸とした工業製品の売り込みです。これは、特定の企業が別の企業を対象に商品やサービスを提供するビジネスモデルを指します。飯豊町に建設中の新工場が製造する電池関連の商材や、大学発ベンチャーが誇る最先端の製品を世界へ送り出す計画です。
5年後に売上高30億円という高い目標を掲げる背景には、独自の勝算があります。長谷川頭取は、大手の総合商社が金融機能を備えているように、地銀が持つ多様な人材とネットワークを活かせば商社ビジネスは十分に可能だと確信しているのです。県などの自治体では直接的な商売を行うことができない以上、地元の販売力を補い地域経済を牽引できるのは地銀しかないという強い覚悟が、この100%子会社による挑戦を支えています。
一方で、本業である金融部門は、4年も続くマイナス金利の影響で深刻な状況に直面しています。これ以上の金利引き下げが進めば利益の確保はさらに難しくなり、これまでタブー視されていた「口座維持手数料」の導入も、今後は具体的に議論すべきテーマになるでしょう。これに対してネット上では「手数料を取るならそれに見合う価値を示してほしい」といった懸念の声も上がっており、地方銀行のビジネスモデルは今まさに大きな転換期を迎えています。
かつて銀行は「揺り籠から墓場まで」と称されるように、顧客の人生に寄り添った長期的なローンを提供してきました。しかし現代は、その都度金利が低ければ乗り換えるという合理的な選択が主流になっています。こうした利益偏重の風潮のなかで、2021年のNHK大河ドラマの主役に、商売における道徳を説いた渋沢栄一が選ばれたことは、銀行が本来果たすべき社会的責任やSDGsの視点を見つめ直す絶好の機会になるのではないでしょうか。
企業の社会的責任を意味するCSRや、持続可能な開発目標であるSDGsへの意識が高まる今、山形銀行のアプローチは単なる延命措置ではありません。眠っている地域の技術を掘り起こし、自らリスクを背負って新産業を創出する姿勢こそが、これからの時代に求められる真の金融機関の姿だと言えます。地元の未来と銀行の生存をかけたこの挑戦が、地方創生の新しい光となることを確信しつつ、その手腕を今後も注視していきたいところです。
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