山形県の静かな町から、世界のエネルギー市場を揺るがす壮大なプロジェクトが動き出しています。2019年12月11日、山形銀行は同年12月に設立する地域商社において、次世代リチウムイオン電池の命ともいえる「新素材」を主力商品として扱うことを発表しました。これは単なる地方創生の枠を超え、銀行自らが産業の担い手となる、全国的にも極めて珍しい挑戦といえるでしょう。
この構想の柱となるのは、2013年から山形大学と共に進めてきた「飯豊電池バレー構想」です。2016年には山形県飯豊町に研究拠点が誕生し、2021年にはいよいよ新素材の量産工場が稼働する予定となっています。SNS上では「地銀がハイテク素材の商社になるなんて胸熱」「山形が電池の聖地になるかも」といった期待の声が寄せられており、地域の未来を象徴する事業として注目を集めています。
電池の性能を左右する魔法の膜「セパレーター」の正体
今回の事業で中心となるのは、電池の主要部材である「セパレーター」です。これは電池の内部でプラスの電極(正極)とマイナスの電極(負極)が直接触れてショートするのを防ぎつつ、電気の通り道となるイオンだけを通過させる絶縁膜のことです。山形大学が独自に開発したこの新素材は、電池の安全性や寿命を劇的に向上させる可能性を秘めており、まさに次世代デバイスの「心臓部」を守る重要な役割を担います。
この画期的な素材を世に送り出すため、山形銀行が100%出資して2020年4月に設立するのが、地域商社「TRYパートナーズ」です。同行は単なる融資担当の枠を飛び越え、立ち上げの実務から人材の採用、さらには販路の開拓までをトータルでプロデュースします。食品などの特産品販売に留まる従来の地域商社モデルとは一線を画し、高度な工業製品を世界へ売り出すという、非常に戦略的で攻めの姿勢を感じさせるビジネスモデルです。
銀行の常識を打ち破る「目利き」と「覚悟」の経営
「地方銀行はじり貧である」という長谷川吉茂頭取の言葉には、マイナス金利政策や人口減少に直面する金融業界の厳しい現実が滲んでいます。しかし、だからこそ銀行が「総合商社」のように投融資と実業を両立させる必要性があるのでしょう。私自身の見解としても、担保の有無で判断する従来の銀行業務から脱却し、技術の価値を見極める「目利き」として地域経済を牽引するこの取り組みは、地銀の生き残りにおける一つの理想形だと確信しています。
もちろん、5年後の売上目標30億円という数字は決して容易な道のりではありません。未知の素材ビジネスにはリスクが伴い、専門人材の育成も急務となるでしょう。それでも、2012年から「山形成長戦略プロジェクト」として種をまき続けてきた同行の執念は、2019年12月の今、確実に芽吹き始めています。山形から世界へ、電池の未来を書き換える挑戦は、地方の可能性を信じるすべての人に勇気を与えてくれるはずです。
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