YKK APがM&Aで米国市場へ本格攻勢!カナダの有力企業買収で狙う海外事業の成長戦略とビル建材の未来

日本の住宅シーンを支えてきた窓やサッシのリーディングカンパニー、YKK APが大きな勝負に出ました。同社はアメリカでのビジネスを飛躍的に成長させるため、企業の合併や買収を意味するM&Aの手法を使い、北米市場の同業他社を傘下に収めたのです。買収に投じた金額は公表されていないものの、およそ100億円弱にのぼると見られています。現在、同社の売り上げはその8割を日本国内が占めていますが、人口減少が続く国内の住宅用建材市場は激しい価格競争に晒されているのが現状です。

こうした状況を打開し、さらなる成長へと舵を切るために選んだのが海外市場への本格進出でした。今回の戦略に対してSNS上でも「国内が頭打ちなら世界へ出るのは必然」「確かな技術があるから海外でも勝負できるはず」といった、前向きな応援の声が多数寄せられています。少子高齢化で市場が縮小することを見据え、先手を打って海外へと活路を求めた同社の経営判断は、多くのビジネスパーソンからも大きな注目を集めているようです。

今回買収されたのは、カナダに本拠地を置く「エリーAP社」という企業になります。1981年に設立された同社は約250人の従業員を抱え、ビルの外壁材として知られる「カーテンウォール」の設計から加工、組み立てまでを一貫して手がける強みを持っています。カーテンウォールとは、建物の荷重を直接支えない、デザイン性と軽量化を両立させた近代的な帳壁のことです。本社こそカナダですが、主なビジネスの舞台はアメリカとなっています。

エリーAP社の2018年12月期における売上高は、日本円にして約46億円に達しました。アメリカ国内でのビジネスの割合は東海岸エリアが5割を占め、西海岸が2割、中西部が15%程度というバランスで展開されています。実は、YKK APも以前からアメリカで同様のビル向け事業を展開してきましたが、エリーAP社には現地工場で効率的に部材を加工できるという、他にはない大きなアドバンテージがありました。

この加工技術のおかげで、建設現場における工事期間をなんと従来の約4分の1にまで短縮できるといいます。現在の米国では中高層の商業ビル開発が盛んに進んでいるものの、深刻な労働力不足が大きな壁となっていました。それゆえに、工期を劇的に短縮できるエリーAP社の存在感は際立っています。このように、時代のニーズを捉えて課題を解決する製品力を持つ企業を選んだ点に、YKK APの確かな先見の明が感じられるでしょう。

短期間で納品できる強みを持つエリーAP社と融合することで、大きな相乗効果が期待されています。両社が一体となることで市場シェアの拡大はもちろん、原材料の共同購入による販売管理費の削減といったコストカットも実現するはずです。YKK APの調査によると、現時点での自社の米国商業施設向けシェアは約12%ですが、今回の買収によってさらに2%ほどの上乗せが見込まれており、さらなる躍進への期待が高まります。

思い返せば、同社がアメリカに足を踏み入れたのは1988年のことで、1991年には現地法人を設立しています。アルミ建材を一貫生産できる強固な地盤を築き上げ、2007年には住宅向けの樹脂サッシ販売にも本格的に乗り出しました。2019年3月期の米国事業における売上高は260億円を記録しており、その半分以上をビル向けの建材が占めています。すでに現地では業界3位前後のポジションに位置している実力派です。

現在はジョージア州のダブリンやメーコン、テキサス州のダラスなどに生産拠点を構えており、2019年1月にはオハイオ州のシンCincinnatiにも新たな工場を誕生させました。アトランタなどに営業拠点を置き、現地での従業員数は約950人に達する規模に成長しています。国内市場に安住することなく、こうした地道な海外投資を続けてきた歴史があるからこそ、今回の大型買収というチャンスを掴み取ることができたのではないでしょうか。

実を言うと、同社が海外の企業を対象にM&Aを行うケースは非常に珍しいケースです。今回のエリーAP社の買収は海外事例として過去最大のスケールであり、2013年にインドの企業から製造事業を約20億円で買い取って以来、実に2件目の出来事となります。これまで自社での成長にこだわってきた同社が、スピード感を持って市場を獲得するために手法を変えたことは、世界で戦う覚悟の現れと言えます。

同社の2019年3月期の連結売上高は、前の期と比べて3%増となる4280億円を記録しました。しかしながら、その内訳を見ると海外事業の売り上げは730億円と、全体の2割弱に留まっているのが実情です。今回の買収は、まさにこの海外比率を引き上げるためのロケットスタートになるでしょう。国内市場の縮小という課題に直面する日本の製造業にとって、今回のYKK APの挑戦は、未来を切り拓くための素晴らしい先行事例になるに違いありません。

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