ひとつの親会社と、その傘下にある子会社がどちらも株式を公開する「親子上場」が、今まさに大きな議論を巻き起こしています。企業間の利害対立や経営の不透明さが浮き彫りになり、市場や投資家から厳しい視線が注がれているのです。この問題について、日本取引所グループの前CEOである斉藤惇氏が、実体験を交えながら鋭く切り込みました。SNS上でも「一般の株主が軽視されている」「日本市場の信頼に関わる」といった懸念の声が次々と上がっており、ガバナンスのあり方が問われています。
英語で上場企業を「パブリックカンパニー」と呼ぶように、本来、上場とは企業を社会の公器として市場に開放することを意味します。それにもかかわらず、特定の親会社が40%から50%もの株式を握ったまま上場を維持することは、本来の意義に矛盾していると言わざるを得ません。例えば、ソフトバンクグループが6割を超える株式を保有したまま行っているソフトバンクの上場は、その典型例です。斉藤氏は、もし自身が東京証券取引所のトップであれば、このような上場は決して認めなかったと強い口調で批判しています。
欧米の資本政策と比較すると、日本の特異性がより鮮明になります。アメリカなどでは、子会社を100%完全に保有して非上場とするか、あるいは完全に切り離して別会社にするのが一般的です。海外における親子上場は、あくまで完全分離や完全子会社化へ移行するまでの、1年程度の「一時的なプロセス」に過ぎません。これに対して日本で親子上場が温存されてきた背景には、かつて豊田自動織機からトヨタ自動車が生まれたように、社内の優秀な人材が革新的な企業を育ててきた歴史的な人的つながりがあります。
しかし、そうした過去の成功体験による甘えが、現代の経営の効率性を損なっていることも事実です。これまでの日本企業では、親子間の商取引において親会社に都合の良い価格設定が行われるケースが散見されました。こうした不透明な経営姿勢は「ジャパンインク(日本株式会社)」と揶揄され、海外から猛烈な非難を浴びてきた歴史があります。もはや甘えが許される時代ではありません。支配株主が30%以上の株式を持つ企業の上場や、何重にも連なる複雑な親子上場は、原則として禁止すべき段階に来ています。
斉藤氏は、現在国内に約6%存在する親子上場企業を、3%程度まで半減させるべきだと提言しています。これを実現すれば、経営の透明性が飛躍的に高まり、日本経済全体の効率性も向上するでしょう。この改革は社会構造の根底を揺るがすため、多くの反発や摩擦が生じることは避けられません。それでも、日本市場が国際的な信頼を勝ち取るためには、痛みを伴う変革を断行する必要があります。私自身も、目先の混乱を恐れて古い体質を維持し続けることは、日本経済の衰退を招くだけだと確信しています。
問われる社外取締役の独立性と問われる少数株主の権利
親子上場という歪んだ構造が存在する現状だからこそ、一般の少数株主を守る「社外取締役」の存在が極めて重要になります。社外取締役とは、社外の客観的な視点から経営を監視し、特定の支配株主による暴走を防ぐために設置される独立した役員のことです。しかし、この仕組みも現状では機能不全に陥っています。斉藤氏自身、アスクルの社外取締役を務めていた際、45%の株式を持つヤフーと約10%を持つプラスの意向によって、事実上解任されるという理不尽な事態に直面しました。
この解任劇の際、一般投資家をはじめとするその他の少数株主の実に9割が斉藤氏の再任に賛成していました。それにもかかわらず、圧倒的な議決権を持つ大株主の意向だけで、監視役であるはずの社外取締役が排除されてしまったのです。いくら企業統治の強化を謳って独立社外取締役を導入しても、大株主の胸三寸で首を切られてしまうようでは意味がありません。こうした事態を防ぐためには、任期を一定期間保障したり、解任手続きに少数株主の意見を義務付けたりするような、法的・制度的な担保が必要です。
かつて斉藤氏らがコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)の策定に尽力しながら、自らがその仕組みの犠牲になったのは皮肉な現実です。しかし、市場を取り巻く環境は着実に変わり始めています。1970年代のアメリカでは、年金運用者に委託者への最善の義務を課したことで、投資家が企業へ価値向上を強く迫るようになり、経済の好循環が生まれました。日本も今こそ、投資家が声を上げ、親子上場のような非効率な構造を打破する改革を止めずに進めていかなければなりません。
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