日本の高齢化社会が深刻な局面を迎えています。2020年1月30日現在、介護を必要としながらも特別養護老人ホーム、いわゆる「特養」に入居できない高齢者が約29万人という高い水準で推移しており、大きな社会問題となっているのです。特養とは、常に専門的な介護の手を必要とする要介護3以上の高齢者が、比較的安価な費用で手厚いケアを受けながら公的に暮らせる施設を指します。しかし、この深刻な受け皿不足により、本来の想定とは異なる事態が起きているようです。
この状況下で、多くの高齢者が流れているのが「サービス付き高齢者向け住宅」、通称「サ高住」と呼ばれる民間賃貸住宅です。これは安否確認や生活相談といった、比較的軽度なサポート体制を備えた高齢者向けの住まいとして、2011年の法律改正を機に誕生しました。国からの補助金などを追い風に、2019年末の時点では約25万戸にまで拡大しています。SNS上でも「親の預け先が見つからず、ひとまずサ高住を検討せざるを得ない」といった、切実な声が数多く飛び交っている状況です。
本来、サ高住は自宅での自立した生活がまだ可能な、比較的元気なシニア層を対象として設計された仕組みでした。しかし現実には、2018年3月末時点で要介護認定者が641万人にまで膨れ上がっているにもかかわらず、特養の増設が追いついていません。その結果、行き場をなくした要介護3以上の重度な高齢者が、サ高住の入居者の実に3割を占めるという、深刻な需要のズレが生じています。
さらに追い打ちをかけるような実態が判明しました。2020年1月29日に国土交通省が発表した調査によると、自立型のサ高住を運営する事業者のうち、約8割が人生の最終段階における看取り、いわゆる「終末期ケア」に対応できないと回答したのです。その一方で、入居者の約7割は「このまま最期までここで暮らしたい」と願っており、理想と現実の間にあまりにも残酷なギャップが存在しています。
このような歪みが生じる背景には、住宅としての普及を推進する国土交通省と、介護保険制度を管轄する厚生労働省との間にある「行政の縦割り」という高い壁が指摘されています。国は医療費抑制のために在宅への移行を推奨していますが、サ高住という名の「自宅」における医療や介護の連携体制は、お世辞にも万全とは言えません。北欧のスウェーデンのように、バリアフリー住宅と手厚い訪問介護がセットになった柔軟な仕組み作りが、今の日本には決定的に不足していると感じます。
高齢者人口は2040年に向けてさらに増え続ける見通しであり、財源の議論だけでこの危機を乗り越えることは不可能です。単にハコモノとしての住宅を増やすだけでなく、人生の最期まで安心して尊厳を保ちながら暮らせるような、質の高いサービス改革が急務ではないでしょうか。制度の狭間で苦しむ高齢者やその家族をこれ以上増やさないためにも、国は一刻も早く実効性のある連携へと舵を切るべきです。
コメント