2020年1月31日、世界を揺るがした大きな歴史の転換点を迎えます。ついにイギリスが欧州連合、いわゆる「EU」から離脱する日がやってきたのです。激変を緩和するための移行期間を経て、年内にも巨大な欧州単一市場や域内税率ゼロの関税同盟から完全に脱退することになります。4年前の国民投票から始まったこの騒動は、昨年の総選挙でジョンソン政権の離脱方針が追認されたことで決定づけられました。しかし、首相が掲げる「EUのくびきから解放された明るい未来」が本当に待っているかは不透明です。
SNS上でもこの歴史的な瞬間に向けて「本当に離脱するなんて信じられない」「イギリス経済はこれから大丈夫なのか」といった不安の声が溢れています。世界で初めてEUを去る国が出たことで、残された欧州側が受ける傷も決して浅くはありません。国家主権を一部制限しながらも、国境を越えてヒト、カネ、モノ、サービスが自由に行き来する「欧州単一市場」は、経済的繁栄をもたらす世界史的な大実験でした。それだけに、今回の決定は欧州だけでなく国際社会全体にとっても憂慮すべき事態と言えるでしょう。
思い返せば、EUの前身である欧州石炭鉄鋼共同体が1952年に結成された背景には、仏独の資源争いが引き起こした2度の大戦への深い反省がありました。その後、1973年にイギリスが加入し、拡大の一途をたどってきたのです。そんな平和と安定の柱からイギリスが背を向けた背景には、世界中で台頭するポピュリズム、すなわち「大衆迎合主義」があります。これは複雑な問題を単純化し、大衆の感情や不満を煽る政治手法のことです。協調と寛容のグローバリズムが今、激しく揺らいでいます。
アメリカの自国第一主義や米中貿易戦争、さらには緊迫する中東情勢など、西側諸国が結束して中国やロシアに対峙すべき難局において、この足並みの乱れは痛手です。そもそも、今回の離脱がイギリスの国益にかなうのかは甚だ疑問だと言わざるを得ません。かつて「欧州の病人」とまで呼ばれた経済停滞からイギリスが復活できたのは、EUという巨大市場の恩恵があったからです。ロンドンは金融センターとして繁栄し、日本を含む世界中から莫大な投資を呼び込む玄関口となっていました。
共通通貨「ユーロ」にはあえて参加せず、自国通貨ポンドを堅持して柔軟な政策を残したまでは賢明な判断でした。しかし、今回の離脱には長期的な戦略の視点が決定的に欠けています。2016年6月、当時のキャメロン首相が政権基盤の強化を目論んで国民投票に踏み切った「結果責任」は極めて重大です。結果として僅差で敗北し、首相は即刻辞任に追い込まれたばかりか、国内には深い分断と根深い地域対立という爪痕だけが残されてしまいました。この政治的失策の代償はあまりにも大きすぎます。
2月からは社会の混乱を和らげる移行期間に入りますが、残された課題は山積みです。新たな自由貿易協定である「FTA(特定の国や地域間で関税を撤廃する協定)」の締結が必須ですが、漁業やビジネス規制、環境対策など調整すべき項目は膨大に存在します。イギリスはEUでの発言権を失うため、ジョンソン首相は期間延長を拒否しています。しかし、イギリスの貿易の半分はEUが相手です。交渉次第では、移行期間を柔軟に延長するなどの現実的な対応が必要になるでしょう。
国際金融市場が最も警戒しているのは、ルールが定まらないまま決別する「協協定なき離脱」です。これだけは何としても回避しなければなりません。イギリスは今後、独自に日本やアメリカと独自の協定を結べるようになり、環太平洋経済連携協定(TPP)への参加にも意欲を見せています。ここからは日本の通商外交の腕前も試されることになるはずです。この危機を教訓に、私たちはグローバル化の恩恵から取り残された人々の不満へ、真摯に目を向ける必要があります。
移民排斥の動きは、実はイギリスだけでなく他のEU加盟国でも深刻化しています。欧州の経済成長がアメリカやアジアに劣る中、格差を縮小して生産性を高める地道な構造改革こそが、残された唯一の道ではないでしょうか。イギリスを失ったEUは、今こそこの危機をバネにして結束を再確認すべきです。私たちは分断を乗り越え、より強固な協力体制を築き上げる欧州の未来に期待するとともに、この激動の行方を注視していく必要があります。
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