「ファッションの丸井」として親しまれてきたあの百貨店が、今、ビジネスのあり方を根本から覆そうとしています。2020年2月5日現在、丸井グループが急速に進めているのは、ただ商品を並べるだけの場所から、お客様が新しい価値を体感できる「体験型」店舗への転換です。この大胆な戦略は、ネットショッピングが普及した現代において、実店舗だからこそ提供できる価値を最大限に引き出そうとする、非常に意欲的な試みといえるでしょう。
象徴的な動きの一つが、2019年12月に有楽町マルイに登場した、オーダーメードシャンプー「MEDULLA(メデュラ)」の体験型店舗です。メデュラは、ウェブでの診断結果に基づき、一人ひとりの髪質や理想に合わせて成分を配合してくれる画期的なサービスで、2018年5月のサービス開始からわずか2年弱で8万人以上の会員を獲得しています。
この店舗では、単に製品を購入するだけでなく、専門スタッフによる丁寧なカウンセリングが受けられます。さらに、専用の機器を用いて髪年齢や頭皮の水分・油分を測定する診断も体験可能です。私自身、このような「自分を知る」という体験こそが、実店舗に足を運ぶ強力な動機になると強く感じます。ギフト用の単品販売も行われていますが、あくまでブランドの世界観やサービスを肌で感じるための場所として位置づけられています。
「データ」と「体験」が主役の新しい店舗モデル
さらに注目すべきは、2020年夏、新宿マルイ本館にオープンするアメリカ発の体験型ストア「b8ta(ベータ)」です。同社は「モノよりもデータを売る店」として知られ、アメリカで24店舗、ドバイで1店舗を展開しています。今回、有楽町店と合わせて日本初進出を果たすことになりました。
この店舗の最大の特徴は、従来の物販中心の収益モデルを捨て、出展企業から得る「出展料」で収益を上げる仕組みにあります。具体的には、来店客がどの商品にどれだけ関心を持ったかという行動データをメーカーに提供し、その対価を得るのです。これは、デジタル時代における店舗の役割を再定義する、まさに挑戦的なビジネスモデルだと言えるでしょう。
出展するメーカー側にとっても、大きなメリットがあります。例えば、まだ大量生産に至っていない試作段階の製品であっても、新宿というターミナル駅の好立地に商品を展示できるのです。SNSでも「ただ売る場所ではなく、未知の製品と出会える発見の場として画期的だ」と、感度の高いユーザーから多くの期待の声が上がっています。
「体験」重視への転換が切り開く生き残り戦略
かつて丸井は、取引先が在庫リスクを負う「消化仕入れ」という手法で成長してきましたが、消費者の関心が「モノ」から「コト」へと移り変わる中、ここ5年でビジネスモデルを抜本的に見直してきました。具体的には、出店企業と定期借家契約を結び、家賃収入を得るショッピングセンター型のモデルへと大きく舵を切ったのです。
中には、売上高に連動した歩合賃料を取らないケースもあり、これは「テナントと一緒に新しい価値を作り上げる」という丸井の強い覚悟を感じさせます。将来への不安から節約志向が高まる現在、従来の物販モデルだけで生き残ることは困難です。
「体験する場所」として店舗を再定義し、新しい価値を提供し続ける丸井の姿勢は、小売業界の未来を占う重要なヒントになるはずです。消費者が本当に求めている「心躍る体験」を店舗でいかに創り出すか。今後の店舗展開から目が離せません。
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