近年、毎年のように日本列島を襲う大型台風や集中豪雨は、私たちの生活に大きな傷跡を残しています。記憶に新しい2019年秋の台風発生時、スマートフォンなどのデジタル端末を持たない高齢者の方々が避難勧告に気づけず、逃げ遅れてしまうという深刻な事態が相次ぎました。この危機的な状況を受け、総務省は2020年度、自治体の発信する緊急情報を家庭内でダイレクトに受け取れる「防災行政無線」の受信機を、全国の高齢者世帯などを対象に1万台規模で無償配布することを決定したのです。
防災行政無線とは、災害が発生した際やその恐れがある局面に、自治体が避難勧告や支援物資の提供といった命に関わる重要情報を電波で伝える仕組みを指します。通常は屋外の巨大なスピーカーから大音量で流されますが、豪雨の激しい雨音や強風にかき消されて室内に届かないケースが少なくありません。そこで役立つのが、室内に設置して電波を直接キャッチする「屋内受信機」です。すでに全国の約7割の市町村が、地域の公民館や一般家庭への配備を進めています。
今回の施策において、総務省は2019年度の補正予算を活用する方針を固めました。まずは導入が遅れている約50の市町村を厳選して端末を配り、そこから浸水被害のリスクが高いエリアに暮らす高齢者のご自宅へと届けてもらう計画です。インターネット上では「スマホを使いこなせない祖父母の家にも置いてほしい」「雨の音がうるさいと外の放送は全く聞こえないから、この取り組みは本当にありがたい」といった、歓迎や安堵の熱い声が多数寄せられています。
しかし、これまでの屋内受信機には、1台あたり4万円から5万円という価格の高さが普及を妨げる大きな壁として立ちはだかっていました。この課題をクリアするため、総務省はパナソニックや日立国際電気といった主要メーカーに対し、必要な機能を厳選することや仕様を統一させることで、より低価格な製品を開発・販売するよう異例の要請を行っています。これにより、製造コストを大幅に抑えた量産型の普及モデルが誕生する見込みとなりました。
先日、高市早苗総務相がBSフジの番組内に出演した際、「各メーカーが知恵を絞って研究を重ねれば、おそらく1万円台で製造することが可能だろう」という非常に前向きな見通しを語っています。端末の価格が劇的に下がれば、国の予算だけに頼らずとも自治体独自の予算で一気に導入を加速させることができるでしょう。情報格差が命の格差につながる現状を変えるためにも、この低価格化の実現には大きな期待がかかります。
私は今回の総務省の決断について、デジタル化が進む現代だからこそ目を背けてはならない「情報のバリアフリー」を実現する極めて意義深い一歩だと確信しています。どれだけ高度な防災アプリが登場しても、それを必要とする高齢者に届かなければ意味がありません。使い慣れた音声という手段で、お茶の間に直接危機を知らせる有線・無線の技術は今なお不可欠です。官民が一体となってこの普及を成し遂げ、一命を取り留める人が増えることを切に願います。
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