世界の自動車業界に大きな地殻変動が起きようとしています。英紙フィナンシャル・タイムズのニューズレターであるモラル・マネーは、2020年2月5日号において、イギリス政府が発表した新しい環境規制の方針について大きく取り上げました。その内容は、地球温暖化の原因となる温室効果ガスの排出を抑えるため、ガソリン車やディーゼル車だけでなく、日本のお家芸とも言えるハイブリッド車(HV)の新型車販売も禁止するという、極めてドラスティックなものです。
当初、この販売禁止計画は2040年の実施が予定されていました。しかしイギリス政府はこれを5年も前倒しし、2035年に実施する方針を固めたのです。この衝撃的なニュースに対し、SNS上では「ついにハイブリッドもダメになるのか」「日本の自動車産業は大丈夫か」といった驚きや懸念の声が数多く上がっています。お気に入りの愛車との別れを惜しむ自動車ファンのみならず、クリーンエネルギーへの移行を注視する投資家たちの間でも、この決定は大きな波紋を広げているようです。
ここで注目すべきは、規制対象にハイブリッド車が追加された点でしょう。ハイブリッド車とは、ガソリンで動くエンジンと電気で動くモーターの2つの動力源を効率よく組み合わせて走る自動車のことです。燃費が良く環境に優しいイメージが定着していますが、完全に排気ガスをゼロにできるわけではありません。今回の前倒しと規制強化が計画通りに進めば、現在市場を走っている自動車の98%が、わずか15年後には販売できない規格外の存在になってしまいます。
この急激な変化の中で、大きなチャンスを掴みそうなのが電気自動車(EV)専業のテスラです。電気自動車は、バッテリーに蓄えた電気だけでモーターを回して走るため、走行中に排気ガスを一切出しません。イギリスの発表と歩調を合わせるかのように、テスラの株価が高値圏で推移しているのも納得の動きと言えます。これからの時代は、排気ガスを「減らす」技術から、完全に「ゼロにする」技術への移行が急務になるのは間違いありません。
一方で、これまで環境対応の優等生として君臨してきたトヨタ自動車は、非常に難しい舵取りを迫られるでしょう。同社は世界を代表するハイブリッド車「プリウス」を大ヒットさせ、持続可能な社会を目指すサステナビリティの象徴として世界的な高評価を得てきました。地球環境を壊さずに未来へ維持していくための取り組みにおいて、常に業界をリードしてきた実績は誰もが認めるところです。しかし、その絶対的な地位が今、激しく揺らいでいます。
現在、世界中の道路を走る乗用車の約10台に1台がトヨタ製という圧倒的なシェアを誇ります。ですが、同社はまだ本格的な量産型電気自動車を市場に投入していません。2020年末には超小型電気自動車の発売を計画していると報じられているものの、世界的なEVシフトのスピードに追いつくには、まだまだ長い道のりが残されている印象です。巨大企業だからこそ、これまでの成功体験から抜け出して舵を切るには時間がかかるのかもしれません。
米金融大手のモルガン・スタンレーは、トヨタが現在の世界シェアを維持するためには、電気自動車の技術開発において極めて大胆な行動を起こす必要があると強い警鐘を鳴らしています。また、アメリカのフォード・モーターや、欧州のフィアット・クライスラー・オートモービルズといった他の自動車大手も、同様に電気自動車への対応が出遅れていると指摘されました。既存の覇者たちが生き残れるかどうかは、これからの迅速な決断にかかっています。
私は、今回のイギリスの決定は日本の製造業全体に対する強力なアラートだと考えています。技術への過信や過去の栄光にとらわれず、次世代のスタンダードを自ら作り出す覚悟が今の日本企業には必要不可欠です。環境規制という名の新しいゲームのルールが始まった以上、変化を恐れずに挑戦する姿勢こそが、これからの15年を生き抜く唯一の鍵になるでしょう。強固なサプライチェーンを持つトヨタだからこそ、見事な逆転劇を期待したいものです。
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