地球に優しい高機能な化学製品が、いよいよ世界の空へと大きく羽ばたこうとしています。東ソーの子会社として知られる東ソー・ファインケム株式会社は、山口県周南市の工場で「ヨウ化トリフルオロメタン」の大幅な増産に踏み切ることを決定いたしました。投資額は約10億円にのぼり、2020年中には生産能力を現在の2倍にあたる年36トンへと引き上げる計画です。SNS上でも「日本の技術が世界の航空安全と環境を守る」「地味だけど凄いイノベーション」と、熱い視線が注がれています。
そもそもヨウ化トリフルオロメタンとは、非常に高い消火能力を持ちながら、環境へのダメージが極めて少ない画期的な物質です。大気中に放出されてもすぐに分解されるため、地球を包むオゾン層を破壊する心配がほとんどありません。この優れた特性が注目され、現在は半導体の製造プロセスに使われる材料としてだけでなく、航空機に搭載する次世代の消火剤としての需要が世界中で急速に高まっています。まさに、これからのハイテク産業と環境保護を支えるキーマスコットと言えるでしょう。
モントリオール議定書を乗り越えた技術者の執念
この劇的な増産の背景には、激動の歴史と技術者たちの不屈の挑戦がありました。同社の前身である「日本ハロン」は、かつて消火剤として広く使われていた「ハロン」の主要な生産メーカーでした。しかし、1987年9月16日に国際的な環境保護の枠組みである「モントリオール議定書」が採択されたことで状況は一変します。ハロンがオゾン層を破壊する有害物質に指定され、日本国内でも1994年からは生産が完全に規制されるという、大きな試練に直面したのです。
しかし、同社はそこで歩みを止めませんでした。培ってきたハロンの原料やノウハウを応用し、地球に優しい代替物質の開発へと舵を切ったのです。2002年からは、国の研究開発機関である新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクトに参画し、大量合成技術の確立に励んできました。今回の増産体制の構築は、長年にわたる地道な研究開発がついに実を結び、世界水準のクリーンなインフラとして認められた証であり、一過性の流行ではない本物の技術力を感じさせます。
世界で急増する旅客機需要が追い風に
今後の市場予測に目を向けると、この投資がいかに先見の明に満ちたものであるかが分かります。日本航空機開発協会の調査によると、2038年には世界で運航されるジェット旅客機が約4万機に達し、2018年時点と比較して約7割も増加する見通しです。特に中国や東南アジアといったアジア圏を中心に、空の旅を楽しむ人々は爆発的に増えていくと予想されています。新造される機体はもちろん、既存の飛行機に積まれる消火剤の買い替え需要も確実に発生するでしょう。
筆者は、今回の東ソー・ファインケムの挑戦を強く支持したいと思います。環境規制という逆境をチャンスに変え、2020年という早い段階で世界標準のシェアを握りにいくスピード感は、日本の製造業が目指すべき理想の姿です。二酸化炭素の排出削減だけでなく、オゾン層保護も地球規模の命題である現代において、こうした環境調和型のハイテク素材は世界中から引っ張りだこになるはずです。山口県から世界へと広がるこのエコな消火剤が、私たちの安全な空の旅を支えてくれるに違いありません。
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