豆腐や納豆の製造大手として知られる太子食品工業(青森県三戸町)が、2019年6月27日、組織改革の一環としてユニークな部署を新設し、業界で大きな注目を集めています。それは、会社の司令塔となる「企画部」でありながら、あえてリーダーである部長を置かないという、まさに常識を覆す新しい組織の形を実践しているのです。この「部長のいない部」が誕生した背景には、どのような狙いや企業の危機感があったのか、同社の工藤茂雄社長にお話を伺いました。
新設された企画部には、通常置かれる部長職がなく、その代わりに原料・販促、商品企画、技術・研究をそれぞれ担当する3人の副部長が配置されました。これまでの組織体制では、主要な3部門にそれぞれ部長がいたものの、部門ごとの考えに偏りが生じてしまい、全社的な整合性を取るのが非常に難しく、結果として著しく効率の悪い状態になっていたといいます。この非効率な状況を打破するために、これら3部門を統合した企画部を立ち上げることが決定されました。
しかし、なぜ部長を置かないという異例の体制を選んだのでしょうか。工藤社長は、企画部の全ての責任を一人で担えるような人材が、まだ社内で育っていないという現実があると説明しています。そのため、企画部では、若い3人の副部長がそれぞれの専門性を活かしつつも、お互いの分野に対しても積極的に意見を出し合える環境を整えたのです。これは、それぞれの部門の課題や情報を共有化することで危機感を共有し、期限を定めてスピード感を持って企画開発を進めてほしいという意図が込められています。また、意見がバラバラにならないように、調整能力に長けた人材が横串(おうぐし)となって3人を繋ぐ役割を担っているとのことです。この横串の役割とは、部門や部署を越えて連携を強化し、全体をまとめる機能のことです。
このような組織改革の背景には、同社が抱える強い危機感がありました。太子食品工業は「固有価値の創造」を企業理念に掲げ、独自技術の開発には多大な投資を行ってきた技術開発型の企業です。しかし、近年ではその努力が消費者にかつてほど評価されず、世間から見た会社のイメージも「チャレンジングではない」と見られ始めていることに、社長は大きな危機感を抱いているのです。技術研究部門に偏りがちな人材構成を改善し、マーケティングやマネジメント部門の人材育成を急務としています。
技術開発力には自信があるものの、その技術を活かした商品が十分に売れていないのが現状であり、技術の自己満足に留まっていては、企業として立ち行かなくなると強く認識されています。そのため、会社として求められているのは、新しい市場を自ら創造していくという柔軟な発想と行動力なのです。例えば、新製品の「生とうふ」のように、既存の商品に付加価値を付けたり、チルド(冷蔵)流通だけでなく常温流通を可能にして販売地域を広域化したり、あるいは海外への販売を視野に入れた商品開発が不可欠だと工藤社長は指摘します。
工藤社長は、もはや自社が豆腐・納豆の専門メーカーである必要はなく、もっと柔軟に健康食品づくりを進めても良いという、非常に大胆な考えを示しています。この新しい発想で市場を開拓していくという重要な課題に、現在、新設された「部長のいない企画部」がまさに取り組んでいる最中です。従来の組織構造にとらわれず、若い力が専門性を持ち寄り、相互に連携・刺激し合うこの新しい挑戦は、硬直化した組織に風穴を開ける可能性を秘めているのではないでしょうか。SNSでは、「柔軟な発想で良い」「ベンチャーみたいで面白い」「成果が楽しみ」といった、前向きな反響が多く見受けられます。この組織改革が、同社の今後の飛躍にどう繋がるのか、その動向に注目が集まるでしょう。
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