建設業界と聞くと、職人たちの経験や勘が頼りのアナログな世界を想像する人が多いかもしれません。しかし、そんな固定観念を根底から覆す壮大なプロジェクトが、日本のものづくりを牽引するコマツによって進められています。それが、ドローンやスマート建機から集約した情報を一元管理するデジタルデータ基盤「ランドログ」です。この取り組みは2020年02月13日の発表以来、業界の垣根を越えたオープンなプラットフォームとして大きな注目を集めています。
SNS上でも「閉鎖的だった建設業界がここまでオープンになるとは驚きだ」「他社を巻き込むビジネスモデルの転換が素晴らしい」といった驚きと称賛の声が相次いでいます。コマツは2015年から、情報通信技術であるICTを駆使して現場の測量や施工を自動化し、作業効率を飛躍的に高める「スマートコンストラクション」という革新的なサービスを展開してきました。これ自体が非常に優れた仕組みでしたが、同社はさらなる高みを目指し、集まった貴重な情報を他社にも開放する決断を下したのです。
この壮大な構想が生まれたのは2016年にアメリカのシリコンバレーで開催された会議でした。現地での助言をきっかけに、社内での議論を経て2017年01月には提携先であるIT企業の社長へ構想が明かされます。現場の地形情報や作業員の動線、機械の稼働状況といったあらゆるデータを誰もが自由に活用できる基盤を作りたいという熱い想いに、パートナーも強く共感しました。しかし、自社の強みを他社に明かすオープン化には、社内から猛烈な反対意見も噴出したと言います。
社内の懐疑派に対して推進派は、泥のついた野菜を洗ってカットして提供するのがランドログであり、それを調理して美味しい料理に仕上げるレストランが各企業のアプリやサービスだと説明しました。データという素材を提供するプラットフォームと、それを利用したアプリケーションは競合せず、むしろ全体の市場を広げるという理論です。理解者は当初半分ほどでしたが、NTTドコモやSAPジャパンといった大手企業を巻き込み、共同出資による新会社が誕生しました。
アップストアをお手本にした3層構造のオープン戦略
誕生した新組織は当初わずか7人からのスタートで、机の発注から始めるようなベンチャー企業さながらの雰囲気でした。彼らが目指したのは、米アップル社が展開するスマートフォン向けのアプリ配信サービスのような、誰もが自由にシステム開発へ参加できるビジネスモデルです。前例のない概念を形にするため、彼らはシステムの構造を3つの階層に分類して設計を進めました。最下層がドローンなどの計測機器、最上層が個別のアプリ、そして中間を繋ぐのがランドログです。
最も苦労したのは、特定の現場だけでなく、あらゆる用途に柔軟に対応できる汎用的なデータ構造を構築する作業でした。この課題を乗り越えた結果、現在では建機メーカーから保険会社、電子商取引を手掛ける企業まで、約60社ものパートナー企業が参画する一大ネットワークへと成長を遂げています。さらに、中小の建設会社を含めた実際の利用者はすでに数万ユーザー規模に達しており、現場の「スマート化」は急速な広がりを見せています。
このプラットフォーム上では、ユニークな新サービスが次々と生まれています。例えば大手物産会社は、建機の燃料残量を遠隔で監視し、給油車両の効率的な巡回ルートを割り出すシステムを2020年の春から始動させています。地元の建設会社が工程の進捗を可視化する独自のソフトを開発する事例も登場しました。プラットフォームに集まる情報量が増えるほど全体の利便性が高まるため、誰もが得をする素晴らしい好循環が生まれていると言えるでしょう。
コマツは自社の利益だけを追求するのではなく、2020年04月からは他社製の古い建機にも後付けできる専用の通信端末を提供し、業界全体の底上げを図っています。日本国内に40万社以上存在する建設業者の多くが中小企業であるからこそ、このような導入ハードルを下げる取り組みは極めて重要です。自社の技術を独占せず、競合すらも巻き込んで社会課題を解決しようとする同社の姿勢は、これからの時代のリーダー企業が歩むべき模範を示しています。
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