東南アジアの経済発展を牽引してきたカンボジアが、今まさに大きな岐路に立たされています。2020年2月12日、欧州連合(EU)の欧州委員会は、カンボジア国内での野党弾圧や人権問題を理由に、これまで適用してきた重大な貿易優遇措置を一部停止する決定を下しました。
今回の制裁措置は2020年8月に発動される見通しです。この決定に対して、SNS上では「人権を守るためには当然の処置だ」というEU支持の声が上がる一方で、「現地の貧しい労働者が職を失うだけではないか」といった懸念や同情の声も数多く寄せられ、議論が白熱しています。
そもそもEUが適用していたのは、発展途上国を支援するための「EBA協定」と呼ばれる仕組みです。これは武器以外のあらゆる品目を無関税でヨーロッパへ輸出できる破格の優遇制度で、カンボジアはこの恩恵によって輸出額を約10倍にまで急拡大させてきました。
しかし、35年という長きにわたり政権を維持するフン・セン首相の強権的な姿勢に、EUはついにしびれを切らした格好です。有力な野党を強制的に解党させ、2018年の総選挙で議席を独占した現政権に対し、EUは民主主義の回復を強く迫っています。
今回の経済制裁について、私は国際社会の正義と実利の難しさを痛感せざるを得ません。人権軽視を容認しないEUの姿勢は理念として正当ですが、結果として現地の主力産業である縫製業が打撃を受け、弱者である労働者が窮地に追い込まれるのは本末転倒と言えるでしょう。
こうした欧米からの圧力に対し、カンボジア政府は「政治的で不公平な判断だ」と激しく反発しています。フン・セン首相はEUの決定に先立つ2020年2月10日、ヨーロッパ側には内政を批判する資格はないと言い放ち、真っ向から対決する姿勢を鮮明にしました。
中国との蜜月関係が加速するカンボジア経済の未来
欧米との溝が深まる中、カンボジアが頼みの綱として急接近しているのが中国です。中国は同国への直接投資の約7割を占めており、巨大な経済圏構想を背景に、現地での高速道路といったインフラ整備や大規模な不動産開発を爆発的なスピードで推し進めています。
フン・セン首相は2020年2月5日にも北京を訪れ、習近平国家主席と固い握手を交わしました。新型肺炎の感染拡大が懸念される緊迫した状況下であっても、中国からの航空便を止めない意向を示すなど、徹底した「中国寄り」の姿勢をアピールしています。
一方で、もう一つの大国であるアメリカは、今のところEUの制裁に同調する動きを見せていません。トランプ米大統領は2019年11月に書簡を送り、政権交代を求めない方針を伝えており、米中対立の隙間でカンボジアの対米輸出はむしろ拡大傾向にあります。
今回の部分的制裁によって、カンボジアがさらに中国への依存度を強めることは確実でしょう。EUは関税の復活というカードで民主化を迫る狙いですが、孤立した国が独裁的な大国に抱き込まれていく現状を見るに、欧米の制裁外交はかえって逆効果を招いていると考えます。
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