世界中の空から、ある翼が消えて久しい今日この頃。2019年5月29日、航空機最大手・米ボーイングのトップから飛び出した発言が、新たな波紋を広げています。デニス・ミューレンバーグ最高経営責任者(CEO)が、2度の墜落事故を起こし現在運航停止中の新型機「737MAX」について、あろうことか「増産」の可能性に言及したのです。
ミューレンバーグ氏は「安全性が確認され、生産体制が整えば増産に取り組む」と述べました。もちろん「安全確認後」という前提条件はついていますが、事故原因とされる機体制御システムの修正ソフトを米連邦航空局(FAA)に提出し、運航再開の承認を求める手続きがまだ完了していない段階での発言です。この前のめりな姿勢に、市場や利用者からは驚きの声が漏れています。
「恐怖」と「利益」の温度差
このニュースに対し、SNSなどのインターネット上では厳しい反応が相次ぎました。「まだ原因究明も終わっていないのに増産?」「利益優先体質が変わっていない証拠だ」「怖くて乗れない」といった、不信感と恐怖を露わにするコメントが溢れかえっています。多くの人々が亡くなった事故の記憶が生々しい中で、経営トップの口から出た「生産拡大」というビジネスライクな言葉は、あまりに心情を逆なでするものだったのかもしれません。
ここで登場する「FAA(米連邦航空局)」とは、アメリカの空の安全を司る政府機関のことです。航空機の設計や製造が安全基準を満たしているかを審査し、お墨付きを与える強大な権限を持っています。ボーイングは近く、事故の原因と目される制御ソフトの修正案をこのFAAに提出する予定ですが、審査がスムーズに進む保証はどこにもありません。
信頼回復への道のりは遠く
私自身の視点で申し上げれば、今回のCEO発言は極めて不用意であり、顧客感情を読み違えていると言わざるを得ません。企業として株主に成長シナリオを示したい事情は理解できますが、今語るべきは「いかに多く作るか」ではなく、「いかに二度と事故を起こさないか」という一点に尽きるはずです。
「増産」という言葉は、安全が完全に担保され、世界中の乗客が再び笑顔でタラップを登れるようになった後に、初めて口にすべきものでしょう。失われた信頼を取り戻すのは、航空機を組み立てるよりも遥かに難しく、長い時間を要する作業です。ボーイング社がその重みを真に理解しているのか、世界の厳しい視線はしばらく注がれ続けることになるでしょう。
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