中東情勢の緊張が再び高まっています。トルコ国防省は2019年5月28日、イラク北部の山岳地帯を拠点とするクルド人武装勢力に対する軍事作戦を開始したと発表しました。これまでも断続的な空爆は行われてきましたが、今回はおよそ1年ぶりとなる地上部隊の投入という大規模な軍事行動に踏み切ったのです。この作戦の開始により、地域での大規模な衝突や、トルコ国内での報復テロが発生するのではないかという懸念が強まっています。
トルコ国防省は、ヘリコプターから兵士が降下する映像などを公開し、この作戦の目的が、トルコがテロ組織と見なすクルド労働者党(PKK)の武装勢力を無力化し、彼らの拠点を破壊するためであると説明しています。作戦は2019年5月27日の午後から、トルコとの国境に近いイラク北部ハクルクにあるPKK拠点への空爆で始まり、同日夜には地上部隊が投入されました。国防省の発表によれば、2019年5月29日までに武装勢力15名を殺害した模様です。
この軍事行動は、トルコの政治日程にも大きな影響を与える可能性があります。特に、2019年6月23日に予定されている、トルコ最大の都市イスタンブール市長選の再選挙です。トルコ国内で人口の約2割を占めるとされるクルド系は、トルコにおいて少数民族ですが、PKKは1980年代からトルコからの分離・独立を目指して武装闘争を繰り返してきました。トルコ国内ではPKKに対する反感が非常に強く、エルドアン政権がこのような強硬策をとることは、再選挙を前に支持層を固める狙いがあるとも見られています。
現に、スレイマン・ソイル内相は2019年5月28日にイスタンブールで開かれた選挙集会において、「国内で今年に入ってからこれまでに400人以上のテロリストを殺害したが、山岳地帯にはなお約600人のテロリストが潜んでいる」と発言し、作戦の正当性を強調しました。SNSでは、「テロ組織には断固たる措置が必要だ」「選挙前のパフォーマンスだ」といった賛否両論の声が飛び交っており、この軍事作戦に対する国民の注目度の高さを物語っています。
クルド系トルコ人の間では、PKKに対する支持は限定的であるものの、今回の軍事作戦によって国内でクルド系を巡る緊張が一層高まる恐れがあります。2015年の総選挙後には、トルコ東部で政府軍とPKKが戦闘状態に入ったという歴史もあり、情勢の悪化は避けたいところでしょう。イスタンブール市長選では、クルド系の政党である国民民主主義党(HDP)が独自候補の擁立を見送りました。これは、当初の選挙でエルドアン大統領の与党・公正発展党(AKP)候補を破った野党・共和人民党(CHP)のイマモール氏への間接的な支持と見られており、再選挙ではクルド系有権者の投票行動が勝敗を大きく左右すると注目されています。
私見を述べさせていただきますと、トルコ政府がイラク領内に地上部隊を派遣するという軍事行動は、国内の政治的な思惑と切り離して考えることは難しいでしょう。しかし、一国の政府がテロ組織と見なす勢力に対して断固たる姿勢を示すことは理解できますが、他国の主権を尊重し、地域の安定に配慮した行動が求められます。特に、選挙を控えた時期に大規模な軍事作戦を行うことは、国内の分断を深め、和平への道筋を遠ざけてしまうリスクがあると考えます。イスタンブール再選挙の結果と、この軍事作戦が地域にもたらす影響を、引き続き注視していく必要があるでしょう。
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