日本政府が2019年6月3日にまとめる新たな「インフラシステム輸出戦略」の全貌が明らかになりました。これは、アジアやアフリカなどの新興国が抱える巨大なインフラ整備の需要に対し、日本企業がさらに積極的に進出できるよう、資金調達の課題を根本から解決しようとする野心的な取り組みです。特に注目すべきは、これまでリスクが高いと敬遠されがちだった新興国向けのインフラ投資に、豊富な資金力を持つ年金基金や生命保険会社といった機関投資家を大胆に呼び込もうとしている点でしょう。
新興国では、電力供給のための発電所や物流の要となる港湾など、社会基盤となるインフラの整備需要が非常に旺盛です。これらのプロジェクトは高い収益(リターン)が見込める一方で、政治・経済的な不安定さや為替変動など、相対的に大きなリスクも伴うため、これまでは主に公的な金融機関や、メガバンクと呼ばれる巨大な都市銀行など、限られた資金の出し手に依存していました。この構造を変革するため、政府は新たなスキームを構築します。
リスクを「保険」でカバー!官民連携の新たな資金調達スキーム
新たな戦略の核となるのは、政府系の日本貿易保険(NEXI)と国内外の主要な大手銀行が連携して設立する、複数のインフラ投資ファンドです。具体的には、銀行が特別目的会社(SPC)と呼ばれる事業体のためのファンドを立ち上げ、機関投資家からの出資を募ります。このファンドは金融機関ごとにそれぞれ500億円から最大1,000億円の規模となる見込みで、複数設立される予定です。
この新しい仕組みの最大の魅力は、機関投資家が抱えるリスクを極力抑えられる点にあります。個別のインフラ案件の審査は、みずほ銀行、三井住友銀行、三菱UFJ銀行といった邦銀メガバンクや、米国のシティバンク、英国のHSBC、ドイツのドイツ銀行など、国際的な金融大手行が担い、専門的な知見で支援します。さらに、複雑な貿易手続きや、融資の回収不能(焦げ付き)といったリスク管理もこれらの金融機関が厳格に行います。
そして何よりも重要な役割を果たすのが、NEXIが新設するファンド向けの保険です。この保険は、投資したプロジェクトが予期せぬ事態で停滞し、損失が発生した場合にその損害をカバーする役割を担います。これにより、機関投資家は相対的にリスクを低く抑えながら、新興国の成長を取り込むことが可能となるのです。これは、インフラ輸出を日本の新たな成長の柱とするための、まさに「守りの要」となる画期的な取り組みであると評価できるでしょう。
世界を股にかける金融機関との協調と今後の展望
この国際的な枠組みには、前述の邦銀メガバンクに加え、海外から米国のゴールドマン・サックス、英国のスタンダードチャータード銀行、フランスのBNPパリバ、ソシエテ・ジェネラルなど、世界有数の金融機関が参画を予定しています。政府は2019年6月中に、世耕弘成経済産業大臣と国内外の銀行がこの方針を確認し、その後、各金融機関とNEXIが覚書を締結する運びとなっています。この新しい枠組みは、早ければ年内にも始動する見通しです。
アジア開発銀行(ADB)の試算によると、2016年から2030年までの期間にアジア地域だけでインフラ整備に必要となる資金は、およそ26兆ドルという途方もない額に上ります。これを年間に換算すると1.7兆ドルが必要ですが、現在の投資額は年間0.9兆ドルに留まっているのが現状です。この巨大な「資金の溝」を埋めるために、日本の官民が連携してリスクを軽減し、世界中の資金を呼び込むこの戦略は、新興国の持続的な成長に貢献する**「日本モデル」**として、世界のインフラ投資のあり方を変える可能性を秘めていると言えるでしょう。
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