トマトの王様として知られるカゴメが今、劇的な自己変革の渦中にあります。2019年08月26日、同社が目指しているのは単なる食品メーカーではなく、野菜の供給を支える「プラットフォーマー」への進化です。かつて「トマトといえばカゴメ」という絶対的なブランド力に甘んじていた社内には、業績悪化という荒波が押し寄せました。2014年12月期の営業利益率は2%台にまで落ち込み、原材料費の高騰も追い打ちをかけたのです。
この危機的状況を打破すべく、2014年に就任した寺田直行社長は「安泰ムードこそが最大の敵だ」と断じ、組織の土台から作り直す決断を下しました。その象徴が2015年に発足した社長直轄の「ダイバーシティ推進室」です。これは多様な人材がその能力を最大限に発揮できる環境を作るための時限組織で、何よりも「スピード感」が重視されました。単なるブームに終わらせないという、経営陣の本気度が伺えるプロジェクトと言えるでしょう。
「さん」付け文化と残業禁止がもたらす、個人の自立という新しい関係性
改革の具体策は、驚くほど身近なところから始まりました。午後20時以降の残業を原則禁止し、社内の呼び方を役職ではなく「さん」付けに統一したのです。これらは一見小さなルール変更に見えますが、実は大きな意識改革を内包しています。寺田社長は、会社が社員を従わせる時代から、個人が主体となって会社と関わる時代へのシフトを強調しており、カゴメをステップに社外へ羽ばたくことすら容認する姿勢を見せています。
SNS上でも、この「卒業を前提とした自立」を促すスタンスには、「会社への依存を脱する現代的な考え方だ」と驚きと共感の声が広がっています。2016年01月にスタートした「ダイバーシティ委員会」には、若手からベテランまで全従業員の4人に1人が参加しました。部署を越えたネットワークが生まれたことで、以前は漂っていた「何を言っても無駄だ」という閉塞感が打破され、自発的な勉強会が各地で開かれるようになっています。
女性の感性を経営の核に!「曽根塾」と役員指名面談の驚くべき効果
カゴメが女性の活躍を重点課題に掲げるのには、極めて合理的な理由が存在します。同社の株主の約99%は個人であり、その半数以上を女性が占めているからです。消費者の主役もまた女性であるため、経営に彼女たちの視点を取り入れることは生存戦略そのものです。そこで2016年に初の女性執行役員となった曽根智子氏を中心に、管理職を目指す女性のための勉強会「曽根塾」が全国の拠点で展開されています。
「ダイバーシティ」とは、性別や国籍、価値観の違いを認め合い、それを力に変える考え方のことです。カゴメではさらにユニークな試みとして、新任の女性課長が好きな男性役員を指名し、月に1回の個別面談を行う制度も導入されました。これは女性側の成長だけでなく、男性役員にとっても現場の感覚や多様な視点に気付く貴重な機会となっています。この取り組みは、一方的な指導ではなく双方向の学びを促進する優れた仕組みだと感じます。
副業解禁と2040年への野心的なロードマップ
2019年04月、カゴメはさらなる一手を打ち出しました。一定の労働条件を満たせば「副業」を認める制度を開始したのです。これは、2020年までに年間総労働時間を1800時間にまで削減する目標とセットになっています。浮いた時間を自己研鑽や副業に充ててもらい、そこでの経験を本業のイノベーションに繋げるという戦略です。2040年には社員と役員の男女比を5対5にするという高い目標も掲げ、組織の景色を塗り替えようとしています。
伝統ある大企業がここまで大胆にメスを入れる姿は、日本の労働文化に一石を投じるものです。生産性の向上は、単なる効率化ではなく「多様な意見がぶつかり合う場所」からしか生まれません。LGBTなど、さらなる多様性の確保も今後の課題として見据えており、カゴメの挑戦は止まりません。一消費者の視点からも、こうした風通しの良い組織からどんな新しい「野菜のカタチ」が提案されるのか、期待せずにはいられません。
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