日本の素材産業界がいま、かつてない大きな転換期を迎えています。2019年9月30日現在、化学や紙パルプといった分野で企業の再編を模索する動きが急速に活発化してきました。この背景には、圧倒的な規模を武器に攻勢をかける海外勢との熾烈なシェア争いがあるといえるでしょう。少子高齢化によって国内市場が縮小傾向にあるなか、各社は生き残りをかけて経営基盤の強化を急いでいます。
象徴的な出来事となったのが、2019年5月に発表された日本触媒と三洋化成工業による経営統合のニュースです。両社は2020年10月を目標に、一つの巨大な組織へと生まれ変わる準備を進めています。紙おむつに欠かせない「高吸水性ポリマー(SAP)」で世界首位の日本触媒と、同5位の三洋化成が手を組むという決断は、業界内に大きな衝撃を与えました。SNS上でも「素材大手の合流で世界に対抗できるのか」「日本の技術力が結集されるのは楽しみだ」といった期待の声が多く上がっています。
世界をリードする「高吸水性ポリマー」の覇権争い
高吸水性ポリマー(SAP)とは、自重の数百倍から千倍もの水分を吸収して保持できる驚異的な樹脂素材のことです。かつては高い利益を誇る花形の「ファインケミカル(特定の機能を持つ高付加価値な化学品)」でしたが、近年はアジア圏の競合他社による増産で価格競争が激化しています。この厳しい状況を打破するため、日本触媒の五嶋祐治朗社長は、コスト削減と相乗効果によってグローバルな競争力を維持する狙いを会見で力説しました。
今回の統合によって期待されるのは、単なる規模の拡大だけではありません。日本触媒はSAPの原料であるアクリル酸の生産に強みを持ち、一方の三洋化成は高度な加工技術や多様な海外ネットワークを保有しています。これらが融合することで、互いの弱点を補い合う理想的な布陣が整うのです。生産コストを抑えつつ、世界各地のニーズに迅速に応える体制を構築することは、激動の国際市場を勝ち抜くための唯一無二の戦略といえるでしょう。
次世代の鍵を握る「全樹脂電池」への挑戦
両社が未来を託すもう一つの柱が、革新的な「全樹脂電池」の開発です。これは電極を含めたほぼ全ての部材に金属を使わず、樹脂で構成する画期的な蓄電池を指します。発火のリスクが極めて低く、曲げたり切ったりしても使用できる柔軟性が最大の特徴です。あらゆるモノがネットにつながる「IoT」社会や身に着けるウェアラブル端末の普及において、この安全性と自由度は決定的なアドバンテージになるはずです。
三洋化成の安藤孝夫社長は、日本触媒が持つ電解質の量産技術と、三洋化成の電池設計ノウハウを組み合わせることで、実用化までの時間を劇的に短縮できると自信をのぞかせています。単独では10年以上かかるとされる困難な道のりも、両社の精鋭研究者が手を取り合えば一気に加速するでしょう。私自身の見解としても、既存の素材事業で稼いだ利益をこうした次世代投資へ振り向けるスピード感こそが、今の日本企業に最も求められている姿勢だと強く感じます。
この巨大な統合の動きは、ライバル他社にも焦りを与えています。SAP大手の住友精化も、生産性を高めるための大規模な設備投資を決定しました。小川育三社長が「残された時間は少ない」と語るように、業界全体が「変化しなければ脱落する」という強い危機感に包まれています。かつての栄光に甘んじることなく、大胆な再編と技術革新に挑む「ニッポン化学」の底力に、私たちは今こそ注目すべきではないでしょうか。
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