日本の基礎研究(科学的な現象や法則を解明するための、応用を直接の目的としない研究)が、今、深刻な危機に瀕しているのをご存じでしょうか。その背景には、資金不足と並び、研究者が本来の活動に集中できない研究環境の悪化があります。文部科学省科学技術・学術政策研究所の調査結果を見ると、大学や大学院に勤務する教員が、勤務時間のうち研究に費やした時間の割合は、2002年時点では46.5%でしたが、2013年にはわずか35%まで大幅に低下しているのです。
この数値から見えてくるのは、大学教員が担う教育活動の負担が増大している事実でしょう。さらに、研究成果を一般の方々へ分かりやすく伝える社会サービス活動(市民講座の開催など)の割合も増加傾向にあります。研究者の皆さんが、教育や社会貢献といった重要な活動を担うことは素晴らしいことですが、そのしわ寄せが最も重要な「研究時間」の削減という形で現れているのは非常に気がかりな状況であると言えるでしょう。研究に没頭できなければ、革新的な成果は生まれにくくなってしまうのではないでしょうか。
研究活動を効率的に、そして最大限に進めるためには、事務作業や実験補助といった業務を担う研究支援者の存在が不可欠です。しかし、この研究支援体制において、日本は国際的に大きく立ち遅れているのが現状です。国内の研究支援者の総数は増加傾向にあるものの、研究者1人当たりに焦点を当てると、海外主要国よりもはるかに少ない人数にとどまっているのです。
具体的に数字で比較してみましょう。日本には研究者が約85万4千人いるのに対し、支援者は約20万7千人。つまり、研究者1人当たりの支援者数は0.24人にしかなりません。これに対し、ドイツ、フランス、英国といった欧州の主要国では、1人当たりの支援者数が0.44人から0.64人の範囲であり、日本の倍以上の体制が整っていることがわかります。このデータを見る限り、日本の研究者は、他国の研究者に比べて、研究そのもの以外の業務も自力でこなさざるを得ない状況にあると推測できるのです。
研究現場の声と、私たちにできること
文部科学省の科学技術白書(科学技術の現状と施策をまとめた報告書)でも、「研究者がその能力を十分に発揮できる環境を整えることが重要」だと繰り返し指摘されています。しかしながら、このような研究環境の改善は、一朝一夕に実現できるほど簡単な課題ではありません。SNS上でも、「研究者が雑務に追われて疲れ果てている」「もっと専門の事務員や実験スタッフを増やしてほしい」といった、現場の悲痛な叫びのような声が散見されます。この状況は、単に研究者の問題として片付けるのではなく、日本の未来の科学技術の発展を左右する国家的な課題として捉えるべきでしょう。
私は、この現状を変えるためには、研究費の増額と並行して、「研究支援者」という専門職の待遇と地位を向上させ、積極的に人材を確保していくことが急務だと強く感じています。研究者の皆さんが、事務手続きや備品の発注といった本来の専門外の業務から解放され、心置きなく研究に打ち込める環境こそが、世界に通用する革新的な成果を生み出す土壌になるのではないでしょうか。この科学技術白書が発行された2019年6月20日を一つの契機として、国として本腰を入れた研究支援体制の整備が進むことに期待したいものです。
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