静寂を切り裂くように、フライトドクターの無線機が鳴り響きます。論文を確認していた医師が、即座に病棟からヘリポートへと駆け出しました。エンジン始動からわずか3分足らずで、医師1名と看護師2名を乗せたドクターヘリが、険しい山々が連なる飛騨地方を目指して大空へ舞い上がります。
岐阜大学医学部附属病院にある「高次救命治療センター」は、2019年現在、全国に42カ所しか存在しない「高度救命救急センター」の一つです。これは、通常の救命センターでは対応が難しい広範囲の火傷や指の切断、薬物中毒といった重篤な患者を24時間体制で受け入れる、まさに医療界の「最後の砦」と呼べる施設でしょう。
2011年から本格運用されているドクターヘリは、広大な山間部を抱える岐阜県において欠かせない翼となっています。たとえば、地上では何時間もかかる飛騨市まで、上空を駆け抜ければわずか30分で到着可能です。年間の出動件数は600件に迫り、1日に何度も出動を繰り返す日々は、SNSでも「命を守るヒーローたち」と、その献身的な姿勢に多くの称賛が寄せられています。
一気通貫の治療体制と、プロを育てる「攻め」の教育
こちらのセンターが誇る最大の武器は、患者さんが病院に到着した後の圧倒的な受け入れ態勢にあります。救急のスペシャリストであるフライトドクター11名を含む、30名以上の医師が在籍する規模は全国屈指です。初動の治療から集中治療室、そして一般病棟に至るまで、すべてを一貫して同じチームが担当できる体制は非常に心強いですね。
教育方針も極めて情熱的で、若手医師にはまず3年間、救命医としての基礎を徹底的に叩き込みます。その後、外科や循環器などの専門分野を学ぶ「サブスペシャリティー(専門医がさらに持つ特定の強み)」を習得させる仕組みです。多角的な視点を持つことで、どんな緊急事態にも動じない最強の医療チームが形成されています。
センター長の小倉真治教授が掲げる信条は「ファイト・アゲンスト・タイム(時間との戦い)」です。駆け出しの時期に1秒を争う感覚を身につける重要性を説くその言葉からは、一分一秒を惜しんで命を救いたいという、医師としての強い執念が伝わってきます。毎年志の高い新人が加わり、現場の士気はますます高まっているようです。
「迷わず呼んでほしい」地域に根ざしたドクターカーの挑戦
さらに2018年04月01日からは、全国でも珍しい取り組みとして、消防本部で医師が待機する「ドクターカー」の運用も始まりました。通報者の息遣いや緊迫した声を医師が直接聞き取ることで、現場に向かう前から病状の重さを予測できる画期的なシステムです。月間60件を超える出動は、地域の安全網をより強固なものにしています。
たとえ出動後に要請がキャンセルされても構わない、と小倉教授は断言します。ためらいが悲劇を招くことを何よりも恐れているからです。医療は待つものではなく、自ら飛び込んでいくものだという姿勢こそが、岐阜の救急医療を支える背骨となっているのでしょう。私たち市民も、こうしたプロフェッショナルの存在を正しく理解し、応援していきたいものですね。
コメント