日本の役員報酬のあり方が、今まさに大きな変革期を迎えています。かつては現金での支給が中心でしたが、「株式」を報酬として渡す制度を導入する企業が相次いでいるのです。野村證券の調査によれば、2019年5月22日時点で導入企業は1514社に達し、2019年6月末までには1550社程度、実に上場企業の42%を占める見通しです。SNSでも「株主と同じ目線で経営してくれるのは良いことだ」「ようやく日本も欧米のスタンダードに近づいてきた」と、この変化を歓迎する声が多く見られます。
この流れを強力に後押ししているのが、2018年に改訂された「コーポレート・ガバナンス・コード(企業統治指針)」です。これは、企業の透明で公正な経営を促すためのガイドラインであり、この改訂で役員報酬の決定プロセスに「客観性・透明性」がより強く求められるようになりました。欧米に比べ現金報酬の割合が極端に高かった日本企業に対し、海外投資家からは「株式を持たない経営陣は信用できない」という厳しい視線が向けられており、経営陣が株主と利害を共有する仕組みへの転換が急務となっていたのです。
株式報酬と一口に言っても様々な種類がありますが、2019年現在、特に急増しているのが「譲渡制限付き株式報酬(RS)」です。これは、役員に対して現物の株式を付与するものの、「3~5年間は売却できない」といった制限が付いている報酬制度です。2016年の税制改正で解禁されてからわずか3年で、導入企業数は約600社と前年の1.7倍に膨れ上がりました。トヨタ自動車や日立製作所といった日本を代表する企業も採用しています。
RSが急速に普及した一方で、かつて主流だった「ストックオプション」の導入は420社と、RSに逆転される形となりました。「ストックオプション」とは、あらかじめ決められた価格で自社株を購入できる「権利」を与えるものです。一見すると似ていますが、こちらは株価が下落しても役員が直接的な損失を被らないため、「株価を本気で上げようとする動機付けになりにくい」と敬遠される傾向が出てきたのです。RSは「現物の株」をもらうため、株価下落がそのまま自身の資産減につながる分、より強い経営への意欲(インセンティブ)が働くと考えられています。
さらに今後、導入が進みそうなのが「パフォーマンス・シェア・ユニット(PSU)」と呼ばれる仕組みです。これは、ROE(自己資本利益率)や株価上昇率といった在任中の業績目標の「達成度」に応じて、支給される株式数が変動する、非常に明快な報酬体系です。HOYAも2019年5月に導入を発表しました。まだ導入は40社ほどですが、税制も整備されたことから、株主への説明責任を果たしやすいこの制度が、日本企業の役員報酬の新たなスタンダードとなっていくかもしれません。
コメント