私たちの体内で日々刻々と生み出される「代謝物」が、医療の常識を塗り替えようとしています。九州大学生体防御医学研究所の馬場健史教授らによる研究グループは、2019年11月28日、タンパク質の働きによって生成される代謝物を極めて効率的に測定する画期的なシステムの開発に乗り出しました。このプロジェクトは、病気の早期発見や新薬の効果判定における強力な武器になると期待されています。
科学技術振興機構(JST)はこの将来性を高く評価し、大学発新産業創出プログラムへの採択を決定しました。これにより、2019年から最大3年間にわたり、年間3000万円もの事業化資金が支給されることになります。研究チームは、この支援を背景に、2022年中の起業を目指して本格的な準備を進めています。まさに、アカデミアの英知が社会実装へと動き出した瞬間と言えるでしょう。
今回の挑戦において、強力なパートナーとなるのが福岡市のFFGベンチャービジネスパートナーズ(FVP)です。ふくおかフィナンシャルグループの傘下にある同社は、事業プロモーターとして、人材採用や知的財産戦略といったビジネスの根幹を支えます。研究者が研究に没頭できる環境を整えつつ、プログラム終了後の円滑な出資や事業化を見据えた伴走支援を行う体制が整っています。
メタボローム解析の革命と「脂質」への挑戦
そもそも「メタボローム解析」とは、アミノ酸やリン酸といった体内の代謝物を網羅的に調べる手法のことです。これは、外見や自覚症状に現れる前の微細な生命現象を捉えることができるため、一人ひとりの体質に合わせた個別化医療の実現には欠かせません。SNS上でも「病気になる前に兆候を掴めるのは画期的だ」と、予防医学の観点から大きな期待の声が上がっています。
これまで、代謝物の約7割を占める「脂質代謝物」は、その種類の多さから正確な測定が非常に困難とされてきました。馬場教授はこの課題を解決するため、代謝物を正確に算出する専用ソフトウェアを構築しました。さらに、従来は熟練者が最大で数千回も繰り返していた膨大な手作業を、ロボットが代行するプログラムも開発。これにより、解析時間は驚異的なスピードへと短縮されました。
自動化によってヒューマンエラーが排除され、データの精度が向上する点は、科学の進歩において極めて重要です。私は、この「職人芸の自動化」こそが、日本の研究開発が世界で勝ち抜くための鍵になると確信しています。解析の民主化が進めば、これまでコストや時間の面で断念されていた複雑な疾患の研究も、一気に加速するに違いありません。
起業後の展望として、まずは製薬会社や食品、化粧品メーカーを対象とした受託解析サービスからスタートする方針です。将来的には、製薬企業と連携して新薬の候補となる化合物を見つけ出し、ライセンス料を得るビジネスモデルも描かれています。2019年11月28日に発表されたこの歩みは、福岡から世界の医療を支える新たな産業が誕生する予兆を強く感じさせます。
コメント