光と影が紡ぐ「祈りの彫刻」:中世ドイツの天才、リーメンシュナイダーを巡る奇跡の旅路

1999年のことでした。ドイツ、ミュンヘンのバイエルン国立博物館の静かな一角で、私は運命的な出会いを果たしました。全身を柔らかな毛に覆われ、天使たちに恭しく捧げられた「聖マグダレーナ」の木彫。その静謐な佇まいと、深い慈愛を湛えた瞳に、私は理屈を超えて心を奪われ、気づけば頬を涙が伝っていたのです。

この作品を生み出したのは、15世紀末から16世紀にかけて南ドイツで活躍した彫刻家、ティルマン・リーメンシュナイダーです。彼はミケランジェロらと同時代を生き、ヴュルツブルクを拠点に息を呑むほど繊細な宗教美術を世に送り出しました。当時の社会的地位も高かった彼ですが、ドイツ農民戦争で弱者に寄り添ったために投獄され、一時は歴史の闇に埋もれてしまいました。

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時を超えて輝きを取り戻した「最高傑作」との邂逅

リーメンシュナイダーが再び「ドイツ・ルネサンスの先駆者」として脚光を浴びたのは1832年のことです。クレークリンゲンにあるヘルゴット教会の箱の中から、伝説的な「マリア祭壇」が発見されたのがきっかけでした。SNS上でも「これほどまでに人間の魂を揺さぶる木彫は他にない」と、その緻密な造形美を称賛する声が後を絶ちません。

私自身、彼の作品に魅了されてからというもの、合計450点を超える関連作品のうち、427作品を実際に訪ね歩く「追いかけ人」となりました。2005年には33年間の教員生活に終止符を打ち、翌2006年にはドイツへ語学留学。言葉の壁を越えて彼の足跡を辿る情熱は、まさに私自身の「祈り」そのものだったと言えるでしょう。

夕刻の光が起こす奇跡:マリア被昇天の瞬間

2007年、私は生涯忘れられない光景を目にしました。聖母マリアが天に上げられる「マリア被昇天」を祝う8月15日前後のわずかな期間、西の窓から差し込む夕陽が、スポットライトのように祭壇を照らし出すのです。影の中から浮かび上がるマリアの顔や手が、刻一刻と黄金色に輝きを増していく様子は、まるで彫刻に命が宿ったかのようでした。

「被昇天」とは、カトリックの教義でマリアが死後、肉体と霊魂を伴って天に迎えられたことを指す専門用語です。リーメンシュナイダーはこの光の演出までも計算し、彫刻に神聖なドラマを組み込んだのかもしれません。このような圧倒的な体験を日本の人々にも伝えたいという思いが、2008年の本邦初となる写真集出版へと結びつきました。

名もなき村に眠る祈りの造形を、未来へ繋ぐ

これまでに16回もの撮影旅行を重ねてきましたが、その旅路は決して平坦ではありませんでした。ガイドブックにも載っていない小さな村の教会を一つひとつ探し出し、現地の協力者を得て記録に残す作業は、根気のいるものでした。しかし、完成した作品リストはドイツの美術館関係者からも「本国にもない貴重な資料」と驚嘆されるに至っています。

リーメンシュナイダーの彫刻は、ただ美しいだけではありません。悲しみや苦しみを抑制のきいた表現で描き出し、観る者の心に深い安らぎを与えてくれます。現在、東京・練馬の「ギャラリー古藤」にて、これまでの集大成となる写真の一部を2019年12月7日まで公開しています。時代を超えて語りかけてくる「祈りの力」を、ぜひ感じ取ってください。

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