セイコーエプソンが、自社の核となるプリンターヘッド技術の外販を劇的に加速させています。2019年11月14日、同社は東大発のスタートアップ企業であるエレファンテックとの強力なタッグを発表しました。この提携は、単なる機器の供給に留まらず、電子機器の心臓部ともいえるプリント基板の製造現場に破壊的なイノベーションをもたらす可能性を秘めているのです。
今回のプロジェクトには三井化学や住友商事といった大手企業も名を連ねており、エレファンテックは第三者割当増資によって総額18億円もの資金を手手にしました。SNS上では「プリンター技術が基板を作るなんて未来すぎる」「環境負荷が減るのは素晴らしい」といった期待の声が続出しており、異業種が交差するオープンイノベーションの象徴として大きな注目を集めています。
環境とコストを劇的に変える「インクジェット印刷」の魔術
エレファンテックが強みを持つのは、折り曲げ可能な「フレキシブル基板」の製造技術です。従来の製法は、基材に張り付けた銅を薬品で溶かして不要な部分を削り取る「エッチング」という手法が主流でした。しかしこの方法では、大量の廃液や廃水が発生し、資源の無駄も多いという課題がありました。そこで登場するのが、エプソンの精密なヘッド技術を応用した新しいプロセスです。
新技術では、必要な場所にだけ導電性のある銀ナノインクを直接プリントし、その上に銅メッキを施します。この画期的な手法により、エレファンテックの清水信哉社長は「製造コストを従来の2分の1から3分の1に抑えられ、環境負荷も大幅に低減できる」と断言しています。無駄を削ぎ落とした「引き算の美学」が、次世代のモノづくりを支えるスタンダードになるのは間違いないでしょう。
「プレシジョンコア」が切り拓く、エプソンの新たな挑戦
エプソンが2021年度までの中期経営計画で掲げる「インクジェットイノベーション」の主役は、独自の「プレシジョンコア(PrecisionCore)」技術です。これは電圧をかけると変形する素子を使ってインクを飛ばす方式で、高い耐久性と圧倒的な高画質を両立しています。2018年には長野県塩尻市に新たな生産拠点を構築するなど、外販への準備は着実に整えられてきました。
今後の展開として、2020年9月には三井化学の名古屋工場内に量産ラインが稼働する予定です。最大で月間5万平方メートルという大規模な生産体制を目指しており、将来的には自動車の複雑な配線である「ワイヤーハーネス」への応用も視野に入れています。プリンターが紙に文字を刻む時代から、あらゆる産業の「構造」を描き出す時代へ。エプソンの野心的な挑戦から目が離せません。
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