2019年9月に大阪で実施された「スタートアップ・イニシャルプログラムOSAKA」の審査員として、私は若き才能たちの熱気に触れる機会に恵まれました。1次選考を突破した15チームによる「ピッチ(投資家などに向けて自らの事業計画を短時間でプレゼンすること)」を目の当たりにして、何より驚かされたのはその顔ぶれです。地元関西の大学生や、卒業して間もない20歳代の若手層が中心となったチームが非常に多く、次世代の台頭を強く予感させました。
さらに2019年10月には、渋谷にある三井住友銀行のオープンイノベーション拠点で、名古屋大学と名古屋工業大学にゆかりのあるベンチャー企業を招いた交流イベントを開催いたしました。登壇した全チームが製造業に関連する「大学発スタートアップ」であり、その技術力の高さと志の深さには圧倒されるばかりでした。このように、アカデミアの研究成果をビジネスへと昇華させる動きが、今まさに全国規模で加速しているのです。
四半世紀で激変した起業環境とICTの恩恵
私が経済産業省系の機関で起業家育成に携わっていた1995年ごろは、地方でイベントを開催しても学生の姿はまばらで、スタートアップという存在自体が希少でした。しかし現在は、ベンチャーキャピタルや大企業のCVC(事業会社が自社の事業とシナジーを生むために設立する投資枠)の増加により、資金調達の壁は大幅に低くなっています。ICTの普及によって起業コストが下がったことも、若者の挑戦を後押ししているといえるでしょう。
特に人工知能(AI)や再生医療といった高度な領域においては、大学の研究成果との連携が欠かせません。こうした背景から、これからの地域都市では大学を拠点としてスタートアップが次々と誕生し、その中から日本を代表するような有力企業が生まれる可能性が極めて高まっています。かつては勤務先からの「スピンオフ(特定の部門が独立して新会社を作ること)」が主流でしたが、今は大学そのものがイノベーションの供給源となっているのです。
「地方から世界へ」という堀場雅夫氏の遺志を継いで
SNS上でも「地方にこそ眠れる宝がある」といった声が上がっていますが、まさにその通りです。堀場製作所の故・堀場雅夫氏は「日本一を目指すなら東京、世界一を目指すなら地方」という言葉を残されました。情報へのアクセスが均質化した現代において、場所の制約はもはや存在しません。グローバルな市場をターゲットにするのであれば、地方特有の強みや研究成果を武器に、ダイレクトに世界を狙うことこそが最短距離になるのかもしれません。
現在は大阪や名古屋において、現地の経済団体が大学と手を取り合い、持続的な成長を支援する「エコシステム(企業や大学などが共存共栄する仕組み)」の構築に奔走しています。私個人としても、特定の都市に一極集中するのではなく、各地の個性を活かしたベンチャーが自律的に生まれる社会こそが健全だと信じています。全国の地域都市から、世界を驚かせるようなスタートアップが飛躍することを、心から期待して止みません。
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