映画ファンなら誰もが知る名匠、周防正行監督の最新作『カツベン!』がいよいよ2019年12月13日に公開日を迎えます。今作のテーマは、大正時代の映画業界でスターとして君臨した「活動弁士」です。周防監督は本作の制作を通じ、私たちが抱いていた「サイレント映画」のイメージを覆す驚きの事実に直面したといいます。
かつての日本では、映画を無音で鑑賞する習慣は存在しませんでした。19世紀末にリュミエール兄弟が発明した映画が日本で初めて興行された際、すでにそこには「活動弁士」という存在が寄り添っていました。画面の横で物語を語る彼らこそが、当時の映画体験における主役だったのです。
静寂ではなく喧騒の中にあった「活動写真」の正体
周防監督自身、学生時代からフィルムセンターに通い詰める中で「無声映画は静かに鑑賞するのが正しい」と信じて疑わなかったそうです。しかし、当時の劇場は現代の静かな映画館とは対照的に、弁士の熱演や楽士による生演奏、さらには観客の歓声やヤジが飛び交う、まるで大衆演劇の芝居小屋のような活気に満ちた空間でした。
ここで専門用語の解説を挟みますと、「活動弁士(カツベン)」とは、無声映画(サイレント映画)の内容を、その場で解説したり登場人物のセリフを演じ分けたりする職業のことです。当時はフィルムに音声が記録されていない「トーキー」以前の時代であり、弁士の語り一つで作品の良し悪しが決まると言われるほど、絶大な影響力を持っていました。
周防監督は、観客が静かにスクリーンを見守るという現代の鑑賞マナーは、映画が音を手に入れた「トーキー」以降に形成されたものだと指摘します。当時の人々はより自由に、感情をむき出しにして映画を楽しんでいました。この自由な空気感こそが、日本映画の原点にあるエネルギーなのかもしれません。
小津安二郎や溝口健二も意識した「音」の演出
興味深いのは、小津安二郎監督や溝口健二監督といった伝説的な巨匠たちも、弁士による語りや伴奏を前提に映画を撮っていたという事実です。自分の意図しないセリフや音楽が現場で付与されることを承知の上で演出を練っていた点は、欧米の映画作りとは大きく異なる日本独自の進化と言えるでしょう。
SNS上では「活動弁士という文化があったからこそ、日本のアニメの声優文化がこれほど発展したのではないか」といった鋭い考察も散見されます。映画監督が観客に届く「肉声」を常に意識していたという歴史的背景は、その後の日本映画の発展に計り知れない影響を与えたはずです。
今回の作品は、チャップリンやキートンの時代を彷彿とさせるアクションや恋、ドタバタ劇が満載の娯楽大作に仕上がっています。周防監督は「誰も見たことがないアクションを作るのが娯楽映画の原点」と語り、現場ではスタッフ全員でアイデアを出し合いながら、かつてない高揚感の中で撮影を進めたそうです。
私個人としては、この『カツベン!』という作品が、デジタル化が進む現代において「生身の人間が物語を伝える」というエンターテインメントの本質を再認識させてくれることを期待しています。2019年12月13日、劇場のスクリーンで繰り広げられる「活動写真」の魔法を、ぜひ全身で体感してみてください。
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