次世代の自動車市場を牽引する電気自動車(EV)の世界において、今まさに大きな技術革新が起きようとしています。京都に本社を置く半導体大手のロームが、2019年12月14日現在、次世代材料である「炭化ケイ素(SiC)」を用いたパワー半導体の増産に向けて、600億円規模という巨額投資を断行することを明らかにしました。これまでの家電中心のビジネスモデルから脱却し、車載分野へと大きく舵を切る同社の戦略に、市場関係者からの熱い視線が注がれています。
そもそもパワー半導体とは、電気の供給を制御したり、交流を直流に変換したりする役割を担う「電力の交通整理役」です。従来のシリコン素材に代わり、SiCを採用することで、電力の損失を大幅に抑えることが可能になります。ロームの試算によれば、EVにこのSiCパワー半導体を導入した場合、なんと500キログラムもあった駆動用バッテリーを40キログラムも軽量化できる余地があるといいます。これは、同じ車体サイズでもより多くの電池を積み込めることを意味し、走行距離の飛躍的な向上に直結するのです。
SNSやインターネット上では「EVの航続距離問題が解決に向かう大きな一歩」「日本の技術が世界標準を握るかもしれない」といった期待の声が続々と寄せられています。調査会社の予測では、SiCパワー半導体の市場規模は2024年までに約2200億円にまで膨らむ見通しです。ロームはこの波を捉えるべく、2019年初頭から福岡県筑後市で新工場の建設をスタートさせました。さらに、2025年3月期までには宮崎県の拠点やドイツの買収先でも生産能力を強化し、盤石な供給体制を築く計画です。
攻めの投資と「リキャップCB」がもたらす財務戦略の劇的な変化
生産効率の向上に向けた次なる一手も、既に見据えられています。現在は直径6インチのウエハーが主流ですが、市場の拡大に合わせて8インチへの大口径化も検討されている状況です。ウエハーが大きくなれば、1枚から取れるチップの数が増えて歩留まりが向上し、コスト競争力が格段に高まるでしょう。専門家からは、今はまだ生産コストが課題であるものの、2023年から2024年にかけて各自動車メーカーでの採用が一気に加速し、ビジネスの景色が一変するとの予測も飛び出しています。
一方で、2020年3月期の連結決算は、家電や通信向けの落ち込みにより減収減益となる見込みですが、2021年3月期には車載・産業機器向けが家電向けを逆転する歴史的な転換点を迎える予想です。これに合わせて、ロームは財務面でも大きな変革を打ち出しました。2019年11月19日には、過去最大となる500億円の自社株買いを発表し、同時に新株予約権付社債(CB)を発行する「リキャップCB」という手法を導入しています。これは負債を利用して資本を整理し、経営の効率性を高める高度な財務テクニックです。
これまでロームは、自己資本比率が9割に迫る「超キャッシュリッチ企業」として知られてきました。しかし、手元資金が多すぎることは効率性の指標である自己資本利益率(ROE)を低迷させる要因でもありました。今回、あえて負債を活用しながら自社株を買い戻す姿勢を示したことで、投資家の間では「ロームが本気で資本効率の改善に乗り出した」と好意的に受け止められています。この発表を受け、株価は2019年11月26日に年初来高値を更新し、現在も高値圏で力強く推移しています。
編集者の視点から見れば、今回のロームの動きは、単なる生産拠点の拡大に留まらない「日本企業の覚醒」を感じさせるものです。技術力という武器を磨きつつ、保守的だった財務体質を筋肉質へと鍛え直す姿勢は、グローバル競争を勝ち抜くための正攻法と言えるでしょう。省エネ性能を極めた半導体が、環境負荷の低減と企業の持続的な成長を両立させる姿は、次世代ビジネスの理想形です。投資と財務の両輪が回り始めたロームの挑戦が、日本の産業界をどう変えていくのか目が離せません。
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