日本の鉄鋼メーカーにとって欠かせない主原料、鉄鉱石の価格に大きな変化が訪れました。2020年1月〜3月期の調達価格が、前四半期と比べて2割近くも値下がりしたのです。これは実に5四半期ぶりの下落となります。これまで高騰を続けていた原料費の落ち着きは、一見するとコストダウンの好機に見えますが、その背景には世界的な景気減速の影が色濃く反映されており、業界内には緊張感が漂っています。
今回の価格改定において、2020年1月〜3月の調達価格は、FOB(本船渡し・運賃含まず)ベースで1トンあたり78.80ドル程度となる見通しです。SNS上では「ようやくコスト高が止まったか」という安堵の声がある一方で、「需要がないから下がっているのでは?」と、鉄鋼業界の先行きを不安視する鋭い指摘も目立っています。この価格変動は、私たちの生活を支える自動車や家電の素材価格にも直結する重要な動きと言えます。
価格が下がった最大の要因は、ブラジル産鉄鉱石の供給不安が解消されたことです。2019年にはブラジルでのダム決壊事故やオーストラリアを襲ったサイクロンなど、相次ぐ不運によって供給が滞り、価格が異常なまでに跳ね上がっていました。しかし、現地の操業が復調したことで、市場には「足りなくなる」という恐怖心が消え、指標となるスポット価格も2019年7月ごろのピーク時から3割ほど下落しています。
中国の生産動向が握る、鉄鋼市場の「予測不能」な未来
鉄鉱石の価格を左右する鍵は、常に世界最大の生産国である中国が握っています。2019年10月の中国の粗鋼生産(加工前の鋼鉄の生産量)は、依然として高い水準を保ちつつも、約3年半ぶりに前年同月比を下回りました。これに連動するように、世界全体の生産量も2.8%減少しており、製造業における「鋼材離れ」が深刻化しています。
市場では「今後の中国の動きは全く読めない」という悲鳴にも似た声が上がっています。一部では建設ラッシュによる需要回復を期待する向きもありますが、自動車産業の低迷という重い課題がのしかかっています。私は、この中国の動きこそが世界経済の体温計だと考えています。生産意欲の鈍化は、単なる季節的な変動ではなく、もっと根深い消費の冷え込みを示唆しているのではないでしょうか。
日本国内に目を向けると、最大手のJFEホールディングスが2019年度の粗鋼生産計画を下方修正するなど、厳しい現実に直面しています。高炉(鉄鉱石から鉄を取り出す巨大な炉)を運営するメーカー各社は、2020年1月〜3月の原料調達をかなり慎重に進めています。これは、来春以降の景気回復に確信が持てない証拠であり、守りの姿勢に入っていることが伺えます。
さらに、主原料だけでなく、合金鉄と呼ばれる副原料も値下がりが続いています。鉄の強度を高めるフェロマンガンなどの価格下落は、供給過剰もありますが、それ以上にメーカー側の「買い控え」が影響しています。編集部としては、この原料安を単純な利益改善と捉えるのは時期尚早だと考えます。むしろ「売るべき製品の出口」が見えない、冬の時代の入り口に立っているのではないかと危惧しています。
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