2019年も残すところあとわずかとなりましたが、今年の政治経済において見逃せない大きな動きがありました。それは、与党内で議論が紛糾した「未婚のひとり親」への税制改正です。これまで結婚歴の有無によって支援に格差があった不合理な制度を見直す一歩となりましたが、その議論の根底には、ひとり親家庭が直面する深刻な貧困問題が横たわっています。
2016年に厚生労働省が算出した推計データによれば、国内の母子家庭は123万世帯に達しています。この30年間でその数は1.5倍に膨れ上がり、現在では子育て世帯の約10軒に1軒が母子家庭という計算になります。離婚が8割を占め、未婚や死別がそれに続きますが、多くの母親たちが経済的な崖っぷちに立たされているのが現状です。
特筆すべきは、母親が働いて得る平均年収がわずか200万円にとどまっているという事実でしょう。離婚世帯で205万円、未婚世帯では177万円と、日々の暮らしを維持するだけで精一杯な数字が並びます。預貯金額が50万円に満たない世帯が4割にものぼる現状は、突発的な出費や病気一つで生活が破綻しかねない危うさを物語っています。
世界一「働いているのに報われない」日本の特殊性
日本のひとり親家庭は、世界的に見ても極めて特殊な状況にあることをご存知でしょうか。OECD(経済協力開発機構)の調査では、日本のひとり親の就業率は約8割とトップクラスの高さです。しかし、驚くべきことに働いている世帯の貧困率は5割を超えており、世界でも突出して高い「ワーキングプア」の状態に陥っているのです。
この歪な構造の背景には、日本特有の「二重の格差」が存在します。千葉大学の大石亜希子教授は、男女間の賃金格差と、正社員と非正規雇用の間の格差が重なっていると指摘します。シングルマザーの労働時間は、非正規雇用であっても成人男性とほぼ変わりません。もはや「もっと働けば自立できる」という精神論は限界を迎えているといえるでしょう。
SNS上ではこうした実態に対し、「朝から晩まで必死に働いても、子供との時間が削られるだけで貯金が増えない」「社会の構造そのものが母親に厳しすぎる」といった切実な声が溢れています。就労を促すだけの自立支援ではなく、構造的な低賃金や雇用の不安定さを解消する抜本的な改革が、今まさに求められているのではないでしょうか。
養育費の「親任せ」を打破する明石市の挑戦
もう一つの大きな課題は、父親からの養育費です。現在、継続的に養育費を受け取れている母親はわずか4人に1人しかいません。欧米では支払いが滞れば行政が強制的に徴収したり、立て替えたりする仕組みが一般的ですが、日本では長らく個人の問題として放置されてきました。子供の成長に不可欠な資金が、親のモラル次第になっているのです。
こうした停滞した状況に風穴を開けたのが、兵庫県明石市です。同市では養育費が不払いとなった際、市が立て替えて支払い、市が責任を持って回収するという画期的な制度の検討を2019年より進めています。「親が別れても子供への支援は欠かさない」という強い意志に基づいたこの取り組みは、全国の自治体が手本とすべき勇気ある一歩です。
私自身の見解としても、母子家庭の貧困を個人の責任として切り捨てるのはあまりに無責任だと考えます。母親の困窮はそのまま子供の教育格差や将来の選択肢を奪うことにつながり、ひいては日本の国力そのものを削ぐ結果となります。次世代を担う子供たちが、親の状況に関わらず安心して育てる社会を築くことは、私たちの義務ではないでしょうか。
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