卓球界の歴史が、中国の地で大きな一歩を踏み出しました。2019年12月12日から15日にかけて中国・鄭州で開催された「ワールドツアー・グランドファイナル」において、待望のビデオ判定が試験的に導入されたのです。直径わずか40ミリという小さな白球が、時速100キロを超える猛スピードで飛び交うこの競技では、これまで審判の「肉眼」だけが唯一の頼りでした。しかし、ついにテクノロジーのメスが入ることになったのです。
注目の場面は、2019年12月12日の男子ダブルス1回戦で訪れました。中国の選手が放ったサーブに対し、審判が「トスが斜めである」として反則(フォルト)を宣告したのです。これに対し、今大会初となるビデオ判定の要求、通称「チャレンジ」が行われました。会場の大型ビジョンに映し出されたのは、補助線が引かれた冷徹なまでのスロー映像でした。そこには、垂直に上げるべきトスが52度も傾いている様子が克明に記録されていたのです。
日本卓球界の悲願!「疑惑の判定」を過去のものへ
テニスやバレーボールでは既に当たり前となっているビデオ判定ですが、卓球界での導入を強く後押ししたのは日本勢の存在がありました。記憶に新しい2019年4月の世界選手権女子ダブルス決勝では、日本ペアのサーブが不当にネットタッチと判定され、流れが変わってしまう苦い経験をしています。これを受けて日本卓球協会が国際連盟に強く働きかけ、2019年7月の賞金大会での試行を経て、ようやく本格的な運用へと漕ぎ着けたのです。
SNS上でも「ようやく公平な時代が来た」「審判の主観で試合が決まるのはもう見たくない」といったファンからの期待の声が溢れています。選手の権利を守るための「チャレンジ」は、1試合につき2回まで認められるルールで運用されており、納得感のある試合展開を実現する鍵となるでしょう。私自身も、選手の血の滲むような努力が、一瞬の視認ミスによって無に帰すことだけは避けるべきだと考えており、この流れを心から支持しています。
「グレーな技術」の終焉?水谷隼選手が鳴らす警鐘
一方で、この技術革新は卓球の戦術そのものを激変させる可能性を秘めています。日本のエース・水谷隼選手は、ビデオ判定を歓迎しつつも、ある重要な指摘を口にしました。それは、多くの選手がルール違反の境界線である「グレーゾーン」でサーブを放っているという現実です。相手に打球の瞬間を見せない工夫や、わずかに斜めに上げるトスなど、これまでの暗黙の了解がビデオ判定によって厳格に「アウト」と判定される恐れがあるのです。
ビデオ判定は、台の端に触れる「エッジボール」の軌道もアニメーションで可視化します。これにより、審判との不毛な議論は減るでしょう。しかし、卓球の生命線とも言える「サーブ」のルールが厳密化されることで、これまでのプレースタイルを根本から変えざるを得ない選手も出てくるはずです。2020年の東京五輪での正式採用は未定ですが、公平性を追求する科学の力が、スポーツの醍醐味である「技の駆け引き」とどう共存していくのか、今後の試行から目が離せません。
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