近年、東日本大震災などをきっかけに人々の関心が高まった「寄付金付き商品」が、なんと日本の伝統である日本酒の世界で再び大きな広がりを見せています。これは、地域の医療現場で活躍するセラピー犬の活動を支援するための資金調達を目的として、神奈川県と静岡県の酒造会社がタッグを組んで実現した、心温まる取り組みなのです。この動きは既に静岡の百貨店でも販売が開始され、多くの注目を集め始めています。
欧米諸国と比較して、日本では「寄付」という文化がまだ根付ききっていない面があると言われています。しかし、このような「商品を購入する」という気軽な形で社会貢献に参加できるシステムは、寄付へのハードルを下げるとともに、地域活性化にも繋がるとして期待されています。飲んでおいしい、そして社会の役に立って気分も良くなる、そんな一石二鳥の善意の輪が、日本酒を通じて広がりつつあるのです。
その先陣を切ったのが、「臥龍梅(がりゅうばい)」の銘柄で全国的にも有名な三和酒造(静岡市)です。同社は2019年6月19日より、静岡伊勢丹(静岡市)限定で、寄付金付きの日本酒と梅酒の販売を開始しました。日本酒は1本(720ミリリットル)が3,240円、梅酒は500ミリリットルが2本で3,240円となっており、この売上の中から700円がセラピー犬の活動資金として寄付される仕組みです。 この企画が誕生した背景には、地元の静岡県立子ども病院で、日本で初めて本格的なセラピー犬の活動が導入されたという経緯があります。
集められた寄付金は、セラピー犬の活動を運営する特定非営利活動法人(NPO法人)のシャイン・オン・キッズ(東京・中央)へ提供されます。この活動の中心となる犬は、ファシリティドッグと呼ばれる専門施設で働く犬の一種です。彼らの主な役割は、小児がんなどの病気と闘う子どもたちの心を癒やし、つらい治療や入院生活を乗り越えるための大きな精神的な支えとなることです。この尊い活動を、おいしいお酒を通じて応援できるというのは、素晴らしいことです。
また、神奈川県海老名市にある「いづみ橋」で知られる泉橋酒造も、シャイン・オン・キッズの呼び掛けに賛同し、寄付金付きの日本酒を製造し、2019年3月末に発売しました。こちらの酒造の地元である神奈川県の病院でもセラピー犬が活躍しており、単品(2,500円)や2本セット(5,000円)として、自社の通信販売サイトや特約店を通じて販売されています。販売開始から既に750本以上を売り上げているとのことで、その反響の大きさが伺えます。
泉橋酒造の橋場友一社長は、東日本大震災の際に、被災地支援のために全国の蔵元や酒販店と協力し、日本酒の売上の一部を寄付する活動を経験しています。その経験から、「お酒を飲みながら話題にして活動の輪を広げてほしい」という思いを込めて、今回の企画にそのノウハウを活かしたそうです。 お酒は社交の場で人々の会話を弾ませるツールです。その場で自然と支援の話題が生まれ、さらなる関心へと繋がる、そんな効果を期待されているのでしょう。SNSでも「飲んで社会貢献できるなんて最高!」「ラベルの犬が可愛すぎる」といった共感や応援の声が多く見られ、人々の関心の高さがうかがえます。
この寄付金付き日本酒の取り組みは、三和酒造や泉橋酒造だけでなく、他のメーカーにも広がりつつあり、今後、同様の商品が増える動きが出てきています。しかし、一般的に寄付金付きの商品は一過性のブームで終わってしまうケースも少なくありません。また、インターネットを介して小口の出資を募る**クラウドファンディング(CF)**という手法もありますが、矢野経済研究所の調査によると、国内市場全体の約1,700億円のうち、寄付型CFはわずか0.4%に留まっており、寄付文化の定着にはまだ課題がある状況です。
こうした状況を踏まえると、セラピー犬支援のような継続的な取り組みを定着させるためには、一時的な販売で終わるのではなく、恒常的な商品供給を続けることと、より多くの人々に知ってもらうための広報活動が欠かせません。この「飲んで寄付」という、楽しみながらできる社会貢献の形が、日本の寄付文化を根付かせる大きな一歩となることを、私自身も強く期待しております。三和酒造と泉橋酒造が灯した善意の火が、日本の隅々まで広がることを願ってやみません。
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