2019年06月に金融庁の審議会が公表した「老後資金として約2000万円が必要になる」という報告書は、日本中に大きな衝撃を与えました。SNS上では「そんな大金を用意できるはずがない」「年金制度はもう限界なのか」といった不安や憤りの声が次々と上がっています。この騒動を受け、民間の調査機関も独自の視点で試算を公表し始めており、私たちの将来に対する備えがいよいよ現実味を帯びた課題として浮き彫りになっています。
ニッセイ基礎研究所が2019年07月17日までに発表した調査結果によれば、現在の生活水準を維持したまま老後を迎える準備ができている50代は、わずか2割程度にとどまることが分かりました。夫が会社員、妻が専業主婦という標準的な世帯を想定した場合、長生きのリスクを考慮した「95%の確率で資金が底を突かない額」を算出すると、65歳までに3200万円もの蓄えが必要になるという非常に厳しい数字が示されています。
年収が500万円から750万円ほどの世帯であっても、この目標額に到達するには、今後5年間にわたって所得の1割を確実に貯蓄へ回さなければなりません。さらに、保有資産を年率2.5%で運用し続けるという条件も加わります。しかし、日本銀行が継続している「マイナス金利政策」の影響で、預貯金の利息はほぼゼロに近い状態です。リスクを抑えつつ2.5%の利回りを確保するのは、決して容易なことではないでしょう。
ここで言う「マイナス金利政策」とは、民間銀行が日本銀行に預けるお金の一部にマイナスの金利を適用することで、世の中にお金が回りやすくする施策です。景気浮揚を狙ったものですが、私たち個人にとっては、預金だけで資産を増やすことが困難になるという側面を持っています。もし運用が計画通りに進まなければ、年収500万円未満の世帯の半数以上は、生活水準を10%以上も下げざるを得ない事態に直面するかもしれません。
一方で、第一生命経済研究所は少し異なる視点を提示しています。最新の家計調査に基づくと、年金以外に必要な不足分は月額約4万円であり、現在のシニア世帯の貯蓄中央値である1500万円があれば、30年以上の生活は維持できるとの見解です。しかし、同研究所の永浜利広氏は、貯蓄が300万円に満たない世帯が約16%も存在することを危惧しています。格差の拡大により、すべての人が楽観視できる状況ではないのが実情です。
特に深刻な影響が懸念されるのは、1970年代前半に生まれた「団塊ジュニア」世代の皆様です。就職氷河期を経験し、非正規雇用で働く方の割合が高いこの世代は、将来受け取る厚生年金が少額になる可能性が高いうえに、退職金も期待できないケースが目立ちます。日本総合研究所の推計によれば、この世代で貧困状態に陥る恐れがある人は41万人にものぼるとされており、社会全体で支える仕組み作りが急務と言えます。
さらに「マクロ経済スライド」という制度が、将来の受給額を抑制する要因となっています。これは、社会全体の現役世代の減少や平均寿命の延びに合わせて、年金の給付水準を自動的に調整する仕組みです。年金財政を維持するためには不可欠な制度ですが、私たちが手にする年金額が、物価や賃金の上がりにほどには増えないことを意味します。そのため、公的年金だけに頼り切ることは、今の時代において現実的な選択肢とは言えません。
私は、今回の「2000万円不足問題」を単なる脅しとして捉えるのではなく、自分の人生をデザインし直す好機にすべきだと考えます。確かに資産運用は大切ですが、投資には常にリスクが伴います。最も確実な「自分への投資」は、健康を維持して少しでも長く働き続けることではないでしょうか。働くことで収入を得る期間を延ばせば、貯蓄を取り崩す時期を遅らせることができ、老後の安心感は飛躍的に高まるはずです。
国も、個人型確定拠出年金(iDeCo)などの私的年金制度を充実させ、個人の備えを後押ししています。しかし、制度を整えるだけでは不十分です。高齢者が意欲を持って働ける雇用の場を確保し、多様な働き方を認める社会への変革こそが、私たちが真に豊かに老後を過ごすための鍵となるでしょう。2019年07月17日、今この瞬間から、自分自身のマネープランとキャリアパスを真剣に見つめ直してみませんか。
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