食品スーパーマーケット「ヤオコー」が、その歴史において大きな転換点を迎えたのは、1988年2月5日のことでした。念願だった株式の新規公開を店頭登録市場(現在のジャスダック)で実現し、その後も1993年には東京証券取引所第2部へ、さらに1997年には第1部へと順調にステップアップを果たしていきます。当時、食品スーパーで初めて上場を果たしたマルエツさんや、いなげやさんの前身である稲毛屋さんは、1977年から1978年頃に上場しており、当時の売上高は約500億円が目安とされていました。この数字と比べると、当時のヤオコーの売上高規模では、まだ上場には遠い状況であったことが分かります。
しかし、川野幸夫会長の強い想いが天に通じたかのように、ヤオコーに追い風が吹き始めます。1980年代初頭から、株式市場におけるベンチャー企業の育成に関する議論が活発化し、その結果、1983年に店頭市場、つまり現在のジャスダック市場の整備が具体的に進められたのです。これはまさに「渡りに船」とも言うべきタイミングであり、一刻も早く上場を実現したいと願っていた川野会長は、この新しい仕組みをすぐに活用することを決意されます。主幹事を務めた野村證券さんから店頭市場への株式公開の提案を受け、ヤオコーは上場を果たしました。当時の売上高は約250億円で、これは上場が売上高500億円程度で可能とされていた先例と比べると、早期の上場実現であったと言えるでしょう。
なぜ、川野会長はこれほどまでに上場を急いだのでしょうか。その最大の理由は人材の確保にあります。店頭公開を実現し、さらに規模を拡大して東証へと市場変更していけば、ヤオコーの知名度と信用度は飛躍的に向上すると考えたからです。小売業界を目指す学生やその親御さんにとって、上場企業というステータスは非常に大きな魅力となるでしょう。実際、上場を機に、ヤオコーには優秀な人材がさらに集まるようになったと伝えられています。
この上場というステータスは、これから入社する人たちだけでなく、当時ヤオコーで働いていた従業員の方々にとっても、大きな励みとなったに違いありません。「自分の会社は上場企業なんだ」という確かな誇りを持つことができるからです。特に、川野会長にとって、従業員の家族が喜んでくれたことが、何よりも嬉しかった出来事だったそうです。店頭市場の整備という幸運が重なり、株式上場のタイミングが想定よりも早く訪れたことは、ヤオコーの成長にとって非常に大きな転機となりました。
ヤオコーの上場が実現した次の年から、「ヤオコーにできるなら、自分たちも」と、全国の多くのスーパーマーケットが株式公開の準備を始めたという話は、当時の業界に与えた影響の大きさを物語っています。証券会社も「ヤオコーモデル」として、各地のスーパーへ株式公開を持ちかけていったそうです。この事実から、ヤオコーが食品スーパー業界における株式公開のパイオニア的存在として、その後の業界全体の動向を牽引したことが理解できますね。
📈好循環を生み出すヤオコー流の堅実経営術
上場後、ヤオコーの業績は驚くほど順調に推移しています。2019年3月期まで、なんと30期連続で増収増益を達成しており、これは現在、連続で増収増益を続けている企業としてはニトリさんに次ぐ第2位の記録です。さらに遡って、会社組織となった1957年から見ても、減収は一度もなく、減益もごく数期にとどまっているという堅実な経営ぶりには、目を見張るものがあります。これは、食品スーパーという業態が、お客様の日常生活の基盤を支える生活必需品を扱っているからこそ、地道に、そして着実に努力を重ねていくことが、企業の成長にとって不可欠であるという考えが、ヤオコーの社風に合致していた結果でしょう。
スーパーマーケットの経営において、持続的な成長のためには「好循環」を維持することが極めて重要です。利益が確保できなければ、店舗の改装や設備への投資ができません。特に、長年にわたりお店を支えてくれているパートタイマーである「パートナー」さんたちにとって、自分の働くお店が改装されて新しくなることは、日々の働きがいに直結する重要な要素となります。また、安定的な出店を続け、着実に店舗数を増やしていくことも、企業全体の成長を支える柱です。
ヤオコーの業績が好調であれば、新規出店への投資に弾みがつき、改装できる既存店も増えます。その結果、働く従業員の皆さんのモチベーションが上がり、さらなる良いサービスへと繋がり、業績はさらに向上するという、見事な好循環が生まれているのです。近頃は、「ヤオコーさん、すごいですね」と褒められる機会が増えているそうですが、川野会長は「私たちはまだまだ実力不足だ。おだてられていることを褒められていると勘違いしないように」と、常に全従業員を戒めていると言います。この謙虚な姿勢と弛まぬ努力こそが、ヤオコーの真の強みであり、油断して現状に満足してしまうと、いつの間にか環境の変化に対応できなくなる**「ゆでガエル」**になってしまうという危機感を常に持っていらっしゃることに、私個人としても、企業が継続的に成長していくための哲学を感じました。
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