アジアの喧騒の中に息づく、爆発的なエネルギーを感じたことはあるでしょうか。九州大学の後小路雅弘教授が案内する「アジアの大衆芸術十選」、その記念すべき第1回は、バングラデシュの街を所狭しと走り抜ける「リキシャ」にスポットを当てます。2019年08月14日現在、現地の日常に欠かせないこの乗り物は、単なる移動手段を超えた、まさに「走る美術館」とも呼ぶべき圧倒的な存在感を放っているのです。
リキシャの車体を眺めてみると、その過剰なまでの装飾に驚かされます。安価ながらもキラキラと輝く飾りや、原色を多用した派手な色彩、そして一度見たら忘れられないキャッチーな絵画たち。その華麗な姿は、しばしば「花嫁の美しさ」に例えられるほどです。実はこのリキシャ、そのルーツを辿ると、かつて日本の輸出産業を支えた「人力車」に行き着くという事実は、日本人として非常に興味深く感じられるのではないでしょうか。
若者の野心と夢を乗せて走る「成功へのパスポート」
この乗り物は、地方から都会へ夢を抱いてやってくる若者たちにとって、大切な生活の糧となっています。特別な学歴や高度な技術を持たない彼らが、自らの体力を武器に稼げる数少ない仕事が「リキシャ引き」なのです。彼らはまず、親方から車両を借りて街へ繰り出します。客を乗せて必死に働き、いつか自分専用の車両を手に入れ、さらには自らが親方になるという成功の階段を夢見て、日々ペダルを漕いでいるのでしょう。
リキシャの背面に描かれる多彩な絵画は、リキシャ・ペインターと呼ばれる専門の職人による手仕事です。そこには、若者たちが憧れる映画スターや人気作品のワンシーン、心の奥にある故郷の穏やかな田園風景、あるいは未知なる大都会のビル群などが描かれています。これらは乗客の関心を引く宣伝としての役割はもちろん、リキシャを引く若者自身の、ときには叶わないかもしれない欲望や祈りを映し出す鏡でもあるのです。
SNSで話題沸騰!人々の心を掴む「大衆芸術」の底力
ここで言う「大衆芸術」とは、高尚な美術館に飾られる伝統的な美術とは異なり、名もなき人々が生み出し、日々の暮らしに密着した表現を指します。SNS上でも「バングラデシュのリキシャが可愛すぎる!」「カオスだけど美しい」といった投稿が相次いでおり、その独特のキッチュな魅力が世界中の人々を虜にしています。1994年に福岡アジア美術館に収蔵されたラジ・クマール・ダス氏らの作品のように、今や国際的にも高い評価を受け始めているのです。
編集部としては、このリキシャに漂う「生のままの熱量」に強く惹かれます。決して洗練されているわけではありませんが、そこには生きるための切実な願いと、明日への希望が鮮やかに塗り込められていると感じるからです。効率化やスタイリッシュさが求められる現代において、こうした過剰なまでの自己主張を持つアートは、私たちの魂を揺さぶる何かを持っているのではないでしょうか。ぜひ、その圧倒的な色彩の海に触れてみてください。
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