2019年08月16日、法政大学で総長を務める田中優子さんの手元には、長年使い込まれた一つの大きなバッグが寄り添っています。この鞄は2014年に彼女が総長という重責に就いた際、半世紀もの年月を共に歩んできた大切な友人たちが、門出を祝して贈ってくれた特別な品です。田中さんは、その上品な文様と実用的なサイズ感を大変気に入り、就任以来、毎日のように持ち歩いているといいます。
この美しいバッグには、フランスの伝統工芸である「ゴブラン織り」が用いられています。これは17世紀、フランス国王アンリ4世の時代から続くタペストリー(壁掛けなどに使われる装飾的な綴れ織物)の技術を現代に受け継ぐものです。田中さんは1993年頃、イギリスのオックスフォード大学でテキスタイル論、つまり布地や織物の歴史と文化についての研究に没頭しており、その際に本場ヨーロッパが誇る質の高い織物の世界に深く感銘を受けたそうです。
バッグを彩るコチョウランと扇の文様は、一見すると和風のデザインに思えるかもしれません。実はここには「ジャポニスム」の影響が色濃く反映されているのです。ジャポニスムとは、19世紀後半のヨーロッパにおいて日本の美術や文化が大きな注目を集め、現地の芸術作品に多大なインスピレーションを与えた現象を指します。このバッグも、当時の流行を経て織り上げられたものであり、西洋の技法と日本の美意識が見事に融合した結果といえるでしょう。
あまりの愛用ぶりに、最近では布製の角がほつれ始め、チャックも壊れてしまうというアクシデントに見舞われました。しかし、多忙な総長業務に追われる彼女には、修理に出すためのわずかな時間すら確保するのが難しいのが現状です。それでも、ボロボロになってもなお使い続ける姿からは、単なる道具としてのバッグを超えた、贈り主である友人たちへの深い敬意と情愛が伝わってまいります。
SNS上では、田中総長のこのエピソードに対し、「物を大切にする姿勢が学識者らしくて素晴らしい」「50年来の友人という関係性が羨ましい」といった感動の声が数多く寄せられています。一流の地位にありながら、古くなった愛用品を大切に使い続ける彼女の謙虚な人柄に、多くの方が共感と尊敬の念を抱いているようです。一途に何かを愛でる心は、画面を通じても読者の胸に温かく響いています。
編集者である私個人としては、壊れた箇所すらも、彼女が総長として駆け抜けてきた激動の歳月の証であるように感じられてなりません。新しいものを手に入れるのは容易ですが、使い込まれた品に宿る思い出や歴史は、決して他では手に入らない宝物です。ボロボロになったバッグこそが、彼女の知性と、それを支える揺るぎない友情の象徴であるといえるのではないでしょうか。今後もこのバッグが、彼女の歩みを支え続けることを願っています。
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