2019年08月19日、アメリカ大統領選に向けた党内指名争いが過熱する中、ある一人の候補者が静かな苦境に立たされています。マサチューセッツ州選出のセス・モールトン下院議員、40歳。海兵隊員として若き日を国に捧げ、ハーバード大学で学んだ知性も兼ね備えた彼は、まさに映画に登場する理想の大統領のような風格を漂わせています。しかし、その輝かしい経歴とは裏腹に、世論調査での支持率は低迷し、主要なテレビ討論会への参加資格すら危ぶまれているのが現状です。
モールトン氏が支持を広げられない最大の理由は、皮肉にも彼が最も得意とする「外交」を公約の柱に据えたことにあります。現在、民主党の支持層や他の候補者たちが関心を寄せるのは、もっぱら国内の医療保険制度や格差是正といった身近な課題ばかりです。国外の問題に触れる際も、それは環境問題や労働条件の改善といった文脈に限定されており、地政学、すなわち「地理的な条件が国家の政治や軍事に与える影響」という視点からの議論は驚くほど欠落しています。
SNS上では「モールトンは有能だが、今の民主党が必要としているのは戦士ではなく改革者だ」といった声が散見されます。2019年06月に開催された党内討論会でも、多くの候補者が中国に言及しましたが、そのほとんどが貿易摩擦に関連した批判に留まりました。中国が米国の国際的な地位を根本から揺るがしているという、安全保障上の深刻な脅威として捉える視点は、今の民主党内では驚くほど影を潜めているように見受けられます。
トランプ氏の強硬策に対抗する「3つの処方箋」とは
一方で、トランプ大統領の姿勢は極めて明確と言えるでしょう。彼は中国を明確な「覇権争い」の相手と定義し、高関税による経済的圧力や、軍備拡張への巨額投資を惜しみません。この手法は強引ではありますが、一つの確立された国家戦略として機能しています。これに対し、民主党は「中国の台頭を阻止すべきか」という根源的な問いに対し、2019年01月の候補者登録開始から8カ月が経過した今も、一致した答えを出せずにいます。
しかし、本気で政権奪還を狙うのであれば、民主党は対中政策において明確なカウンタープランを提示すべきではないでしょうか。例えば、国家の目的を他国との比較ではなく「国民の福祉向上」に置くと宣言する道があります。貿易戦争や軍拡が、平均的なアメリカ人の生活にどのような実利をもたらすのかを厳しく問うのです。また、国内の分断を煽るトランプ流の政治では、真の国際競争には勝てないと批判する論法も説得力を持つはずです。
さらに重要なのは、かつての冷戦がそうであったように、外交的な「知略」を取り戻すことです。冷戦とは単なる軍拡競争ではなく、同盟国や中立国をいかに味方に引き入れるかという「陣取り合戦」の側面がありました。トランプ氏が同盟国を軽視する今こそ、米国は「太平洋版NATO」のような多国間連携を構築し、経済的には寛容に、外交的には抜け目なく立ち回る姿勢を見せるべきでしょう。有権者が自然に理解してくれるのを待つのではなく、次世代のリーダーたちが自ら口を開くべき時が来ています。
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