幻の「佐治漆」が鳥取で復活!西日本屈指の名産地・佐治谷の伝統を次世代へ繋ぐ塗師の挑戦

日本の工芸品が放つ独特の美しさを支える主役といえば、古来より愛されてきた「漆」に他なりません。かつて鳥取県は西日本を代表する漆の産地として名を馳せており、特に鳥取市佐治町に位置する佐治谷(さじだに)で採れる「佐治漆」は、中世の時代からその品質の高さを称賛されてきました。この漆は非常に艶やかで、筆の運びを邪魔しない優れた伸びの良さが特徴であり、職人たちの間では至極の逸品として重宝されていたのです。

しかし、これほどの名産地でありながら、佐治谷の周辺には漆器を製造する産業が定着しなかったという珍しい歴史を持っています。そのため、戦後の高度経済成長期を迎える頃には生産が完全に途絶えてしまい、地元の人々の記憶からもその存在は次第に薄れていきました。まさに「幻」となってしまった佐治漆ですが、その輝きを現代に取り戻そうと情熱を燃やす一人の職人がいます。それが、県内で活躍する塗師の橋谷田岩男さんです。

漆を塗る専門家である「塗師(ぬし)」として活動する橋谷田さんは、自身の仕事を通じて失われた佐治漆のルーツを丹念に調査してきました。かつての誇りを取り戻すべく、2016年09月01日に「佐治漆研究会」を発足させた彼は、荒廃してしまった山々を再生させ、再び漆の畑を蘇らせるための第一歩を踏み出しています。何事も基礎が肝心であるとの考えから、まずは100本を超える苗木を大切に育て上げ、ついに佐治の山へと植樹を行いました。

漆の木から漆液を収穫できるようになるまでには、およそ10年という長い年月を要します。2019年09月11日現在、若木たちは大地の恵みを吸収しながら、将来たくさんの漆液を蓄える立派な成木へと成長する日を静かに待っている状況です。SNS上でもこの取り組みに対し、「地元の歴史が形になるのは素晴らしい」「10年後が楽しみだ」といった温かい期待の声や、伝統工芸の衰退を憂う人々からのエールが数多く寄せられています。

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伝統の灯を絶やさない情熱が未来の山を創り出す

私が思うに、地域の歴史に埋もれた「宝」を掘り起こす橋谷田さんの活動は、単なる工芸品の材料確保に留まらない深い価値を持っています。漆の木を植えることは、10年先の未来へ責任を持つということであり、それは地域環境の保全にも直結する尊い行為です。産業が途絶えてしまった場所でゼロから復活を試みるのは並大抵の苦労ではありませんが、こうした個人の情熱こそが、文化というバトンを次世代へ繋ぐ唯一の手段ではないでしょうか。

現在、佐治の山に植えられた苗木たちが順調に育てば、かつての評判通り、再び艶やかで伸びの良い漆が私たちの目を楽しませてくれるはずです。失われた伝統が再び芽吹き、鳥取の山々が漆の産地としての輝きを取り戻すその瞬間まで、私たちはこの挑戦を応援し続ける必要があるでしょう。地元の職人が自らの手で土を耕し、苗を植える姿は、まさに地域文化の再生における理想的なモデルケースと言えるかもしれません。

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