2019年09月25日(日本時間2019年09月26日)、ニューヨークの地で日米の歴史的な貿易交渉がついに決着を見ました。閣僚級の協議開始からわずか半年という異例のスピード決着の背景には、両国の切実な思惑が複雑に絡み合っています。日本側は最大の懸念事項であった自動車への高関税や数量規制という「最悪のシナリオ」をひとまず回避することに成功しました。安倍晋三首相が「ウィンウィンの結論」と胸を張る今回の合意は、日本の基幹産業を守るための大きな一歩と言えるでしょう。
SNS上では「ひとまず自動車関税が上がらなくて安心した」という安堵の声が広がる一方で、「農業分野での譲歩が大きすぎるのではないか」といった懸念の声も目立ちます。特に米国産牛肉の関税が現在の38.5%から段階的に9%まで引き下げられる点は、消費者にとっては朗報ですが、国内農家にとっては大きな試練となるはずです。このように、今回の合意は私たちの食卓や仕事に直結する極めて重要な転換点なのです。専門的な視点で見れば、これは自由貿易の枠組みを守るための苦渋の選択だったとも解釈できます。
トランプ氏の「焦り」と茂木氏の「攻勢」が交差した舞台裏
今回の交渉を加速させた最大の要因は、2020年の大統領選挙を控えたトランプ大統領の「実績作り」への焦りでした。米中貿易摩擦が激化する中、米国の農家は中国による報復関税で苦境に立たされています。トランプ氏は支持基盤である農業団体に対し、日本市場の開放という「果実」をどうしても提示したかったのです。首脳会談の最中に農業関係者を部屋に招き入れ、「多額の資金が流れ込んでくるぞ」と豪語したシーンは、まさに選挙を意識したパフォーマンスそのものでした。
一方、日本側の交渉を担った茂木敏充経済再生担当相(当時)の立ち回りも見事でした。米国側が環太平洋経済連携協定(TPP)を上回る過酷な要求を突きつけてきた際、茂木氏は「早く決めたいのはそちらではないか」と強気の姿勢で迫りました。TPPとは、アジア太平洋地域の国々で関税を撤廃し、共通のルールを作る経済枠組みのことですが、米国はこの枠組みから離脱したため、日本と個別に交渉せざるを得ない立場にありました。この立場の弱みを突いた日本の戦略が、一定の成果を引き出したのです。
しかし、手放しで喜んでばかりもいられません。トランプ大統領は、貿易協定とは別に米国産トウモロコシの緊急輸入を日本に約束させました。これは中国への輸出が滞った余剰在庫を日本が肩代わりする形であり、多分に政治的な配慮が透けて見えます。私自身の見解としては、同盟国としての信義を守りつつも、こうした「お買い物」が常態化することへの警戒は解くべきではないと感じます。短期的な決着のために、長期的な国益を損なうような前例を作るべきではないからです。
「トランプリスク」は継続?第2ラウンドへ向けた課題
今回の合意で注目すべきは、貿易額ベースで米国側は約92%、日本側は約84%の関税が将来的に撤廃される見通しとなった点です。特に自動車部品の関税撤廃が盛り込まれたことは、トヨタ自動車などのメーカーにとって大きな救いとなりました。日本自動車工業会の豊田章男会長も、2019年09月26日の懇談で交渉チームの尽力を称えています。もし25%もの追加関税が課されていれば、日本の自動車産業は数千億円規模の損失を被り、経済全体が冷え込んでいたに違いありません。
ただし、ライトハイザー米通商代表は「現時点では日本車に追加関税を課すつもりはない」と述べるにとどめており、「現時点」という言葉に含みを持たせています。2020年春以降には、金融や通信、サービス分野の開放を迫る「第2ラウンド」の交渉が控えており、米国側が再び自動車関税をカードに譲歩を迫ってくる可能性は否定できません。追加関税を外交の武器として使う「トランプリスク」は、依然として日本の頭上に暗雲として垂れ込めています。
編集者としての視点から言えば、今回の合意は「破局を免れた一時的な休戦」に近い性質を持っていると感じます。日本は自動車という盾を守るために、農業という矛を一部差し出した形です。今後、米国側がさらに薬価制度(医薬品の価格決定ルール)や非関税障壁の撤廃を求めてくることは間違いありません。私たちが注視すべきは、次の交渉で「何を差し出し、何を守るのか」という明確な国家戦略です。日米のパワーバランスが試される日々は、これからも続いていくことでしょう。
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