2019年08月20日の午後、強い日差しが照りつける中国甘粛省のゴビ砂漠に位置する高台県へ、国家主席である習近平氏が突如として姿を現しました。人口16万人ほどのこの静かな街を訪れた目的は、かつての激戦地として知られる「西路軍記念館」の視察です。習氏はそこで、現在の中国の礎が決して容易に築かれたものではないと力説し、共産党の伝統である「紅色の遺伝子」を次世代へ継承していく重要性を熱く語りかけました。
ここで語られた「西路軍」とは、1930年代に当時のソ連へ支援を求めるべく派遣された約2万人もの精鋭部隊を指します。しかし、彼らは国民党軍の激しい攻撃にさらされ、壊滅的な打撃を受けることとなりました。共産党の歴史において「最大の敗北」とも称されるこの地を、建国70周年の節目を前にあえて選んだ習氏の行動には、国内外から大きな注目が集まっています。そこには、苦難の歴史を再確認することで政権の正統性を固める狙いがあるのでしょう。
習氏の訪問から1週間が経過した2019年08月下旬、現地を訪れると、お揃いの衣装に身を包んだ団体客が国旗を振りながら「中国を愛している」と声を揃える熱狂的な光景が広がっていました。記念館のスタッフは、主席の訪問以降に参観者が急増したことを明かし、彼を「領袖(りょうしゅう)」という言葉で表現しました。この言葉は、本来「建国の父」である毛沢東氏にのみ許された特別な敬称であり、習氏を同等の存在へ引き上げようとする動きが示唆されています。
毛沢東と並ぶ絶対的指導者への道
2019年08月25日付の共産党機関紙「人民日報」では、1面に「人民の領袖は人民を愛す」という見出しが躍り、明確に習氏を「領袖」として位置づけました。これは、習氏を毛沢東氏と比肩する絶対的な指導者として神格化する運動が、着実に進行している証拠といえるかもしれません。SNS上では「愛国心の高まりを感じる」という支持の声がある一方で、「過去の個人崇拝への回帰ではないか」と危惧する複雑な反応も見受けられます。
さらに2019年09月13日には、毛沢東氏ゆかりの地である香山で、幹部らを前に訓示を行う習氏の姿がメディアを通じて大々的に報じられました。米国との通商摩擦など、かつてない国際的な試練に直面するなかで、習政権は「先輩革命家の不屈の精神」を盾に国民の結束を促しています。筆者の目には、この「紅色の遺伝子」への回帰こそが、激動の時代を乗り切るための党指導部にとっての最終的な精神的支柱であるように映ります。
かつての敗北の地を「勝利へのプロパガンダ」へと塗り替える手法は、非常に巧みでありながら、同時に現在の中国が抱える危機感の裏返しとも受け取れます。対外的な圧力が増す中で、内団結を固めるために「領袖」という象徴を必要としているのでしょう。建国70周年という大きな転換点を迎え、中国がどこへ向かおうとしているのか、私たちはその象徴的な動きから目を離すことができません。
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